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【4】決別と始まり
〜ロシア〜
サンクトペテルブルク。
広大な敷地が広がる、国の英雄ラルフ・ヴェノコフの邸宅。
チェコノヴァの死後、もう1人の娘ヴェロニカは、市民に開放していた庭園を閉鎖した。
その大きな門に、今1台の車が着いた。
近付く門兵に窓を開け、監視カメラを見る。
「何の用だ?お…お前はラブの仲間❗️」
「ヴェロニカ将軍に会いに来た。邪魔するな」
「な…何だと⁉️」
その真剣な目と声に、構えた銃が震える。
絶対的優位にありながら、それを感じさせない威圧感。
「構わん、通せ」
ヴェロニカの声がした。
「ティーク、私も話したいことがある」
T2と共にラブを守る戦士。
剣術の腕は、ラブに匹敵するタフガイである。
門が開かれ、屋敷へと向かう。
あちこちで大規模な工事が行われている。
美しい庭は、影も形も無く消えた。
しかし、古い屋敷の外観はそのままであった。
破壊された部分の修理は済んでいる。
屋敷には、新しい執事が立っていた。
「ティーク様、お車はそこでよろしいです。主人がお待ちしておりました」
(軍人ではない…か)
その物腰や仕草から、仕えることに慣れた者であることが見てとれた。
屋敷に入り、リホームされたリビングに入る。
執事が下がり、静かにドアを閉めた。
物憂げに窓際に腰掛けて、消えていく庭園を見つめているヴェロニカ。
「どうした、らしくないぞ」
「ティーク…またこの地で会えるとは、思ってもいなかった。今更迎えに来ても、もう手遅れよ。つい先程、ラブにさよならを言ったところだから」
「珍しく後悔してるのか?」
「後悔…そんな感情は知らないから分からない。ただ、あなたとのことが終わるのは、とても辛い」
「すまないが、私は辛いと言う感情を知らない。お前とは、始まっていないも同然。ただ…あの時、必ず迎えに来ると言った約束。それを果たせなかったことは、今でも後悔している」
近付いたティークに、抱きつくヴェロニカ。
驚きながらも受け入れるティーク。
「あなたはラブから離れられない。その絆の強さは、この星の私にも分かる。でも…」
「無理だ。私は彼女を守るのが使命。そのために生かされ、尽誠の王として、ラブレシア様と共に生きる」
愛情とは生涯無縁。
戦士の星の王位継承者であるティーク。
彼は、ヴェロニカの未練を聞くことを恐れた。
聞いてしまえば、聞き流す自信が…無かった。
「分かったわ。あなたを余計なもので苦しめるのは、私の本意ではない」
ティークの気持ちを察したヴェロニカ。
愛されていると知っただけで、十分であった。
「戻る気はないのだな」
「ない…」
「ならばその引き金を引け。私はこの命の限り、お前の敵となる。今殺らなければ、本当の後悔と言うものを知ることになるぞ」
抱きついた時から、背中に回した腕には銃が握られていた。
背中からティークの心臓を貫通し、そのまま自分の心臓も貫くつもりで…。
「面白い。その後悔とやらを、楽しみに待つことに致しましょう」
抱きしめた腕を解き、テーブルに銃を置いた。
「もう…容赦はしない。父とチェコノヴァの恨み、全世界が恐怖として感じるがいいわ。ミラゾフ!」
呼ばれた執事が入って来る。
「はい、ご主人様」
「彼がお帰りです」
「畏まりました。ではティーク様、お車へ」
少しヴェロニカを見つめ、背を向ける。
振り返ることなく、執事と出て行った。
「さよなら…愛しい人」
涙を拭いて、マイクを取る。
「ティークが出て行く。国を出るまで、誰も手を出すな。邪魔をした奴は、私が殺す❗️」
ヴェロニカの声が響き渡る中。
ティークの車が、空港へと出て行った。
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