【4】決別と始まり

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〜ジョージア州アトランタ〜 CDC(アメリカ疾病予防管理センター)では、既に職員や関係者の多くが、フェアリーバタフライをペットとして持ち出していた。 『死蝶』の情報は、会議に出席したメンバーしか知らず、機密情報とされた。 しかし…事態は最悪の方向へと向かい始めた。 スイスのジュネーブにあるWHO(世界保健機関 )本部が、佐橋のリストから世界中の購入者を探し出し、捕獲作戦を繰り広げる中で、その噂は広まって行ったのである。 さらに、予測できない産卵の恐怖が、関係者を悩ませていた。 産卵から成虫孵化までは、僅か数日。 これが繰り返された場合、世界はあの蝶に支配されてしまうことになる。 「回収の状況はどうだ?」 CDCのスタンベリー局長と広報部は、連日マスコミと政府への報告に振り回されていた。 「ここの局員は、回収と聞いた途端に、危険なものと理解して協力的です。しかしそれを察知してか、持ち主を離れて行く蝶も多く、無理に捕獲や殺虫剤を使用とした者は、あの鱗粉の被害に…」 ジョン・マーシャル博士の報告が途切れる。 代わりにセリーヌ・マリー博士が続けた。 「被害は、当局員と家族を含め14名が死亡、21名が病院か警察に。未回収分は逃げた5頭です」 補足:蝶の正式な数え方は匹や羽ではなく頭。    虫と言うくくりで数えるなら匹で良い。 「WHOも苦戦している様だ。午後には、大統領が注意を呼びかける予定だが…」 「あと被害者ですが、あの蝶には生殖器官はなく、ミツバチの様な単為生殖生物です。今までの被害者からは卵は見つかっていませんが、成虫になってからの期間を、イースター島の例で考えると、今回は可能性があります」 「発見できるのか?」 「分かりません。少なくとも、CTやMRIでは見つけられませんでした。恐らくかなり小さいか、細胞に変異して身を隠しているものと考えます」 「ならば、光を遮断して保管し、火葬にしろ」 「そうしたいのですが、承諾しない家族もいて困っています」 「確かに…遺族を納得させるのは難しいが、私が責任を持って何とかする。家族の前で、アレが孵化することがあってはならない。直ぐに処理したまえ」 「分かりました。家族の気持ちを考えると辛いですが、局長の言う通り、最悪の状態は絶対に見せられない。よろしくお願いします」 苦渋の決断が、各機関で行われていた。 しかしその甲斐あって、世界を蝶に支配される事態は(まぬが)れ、事態は収束に向かった。 イースター島は、無数の蝶達が群れ飛び、無人の孤島となった。 蝶達が飛べる範囲の近海は、立ち入り禁止区域に指定され、監視用のブイが島を囲んでいる。 空からの殺虫剤散布も考えられたが、他の生態系への影響が懸念され、ラブの率いる組織EARTH(アース)により、地道な捕獲と駆除活動が行われている。
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