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その後一週間。
闇のネット通販から、あの蝶がペットとして、広まって行った。
その白く半透明な姿から、『フェアリーバタフライ』と呼ばれ、人懐っこく水だけで餌の要らない蝶は、密かな人気商品となり、高額で取引きされる様になっていた。
蝶の鱗粉が懸念視されたが、通常の蛾や蝶の鱗粉は無害であり、料理の飾りに使う国もある。
この蝶も分析され、全く無害と診断された。
昆虫学界に於いては、この新種に大騒ぎとなったが、その原産地は極秘扱いである。
富士本は咲を自宅謹慎とし、ショックから立ち直れないでいる紗夜も、数日間は休ませ、淳一も付き添った。
せっかくの二人揃っての休みである。
淳一は紗夜を、買い物に引っ張り出した。
カートを押しての買い物は、新婚以来である。
雑貨や野菜類は紗夜に任せ、肉や魚を見に、売り場へ来た淳一。
たまには奮発して、うまいステーキでもご馳走してやろう、との思いである。
(高ぇ〜!でも、確かに美味そうだな)
あれこれと選んで、ふとカートを見る。
(……食えねぇなこんなに💧)
と思った時。
「ヒャァー❗️誰か…誰か助けて❗️」
肉や魚を加工する部屋から、悲鳴が聞こえた。
慌てて逃げ出して来る調理人達。
非番でも、外出時は銃と手帳を携帯している。
転げ出てきた女性に乗り、刺身包丁を振りかざした男を見た瞬間。
刑事の習性が銃を抜かせていた。
「やめろ❗️」
包丁が振り下ろされる間際。
一瞬、『間』を感じた。
しかし躊躇する余裕はなく、それに気付いた時には、引金を引いていた。
「パンッ❗️」「ウガッ!」
横から肩を撃たれ、倒れる調理人。
「グァー痛ぇ!誰か救急車を、早く!早く頼む。あのヤロウ撃ちやがった❗️」
紗夜が駆けつけた時。
銃を構えたまま、動けないでいる淳一。
「淳❗️いったい何が⁉️」
「あいつが…包丁で…仕方なかったんだ…」
意識は、あの『間』に捕われていた。
(そんな…バカな)
撃たれた男は、最初は騒いでいたが、肩からの銃弾が脊椎を掠めて重傷であり、既に意識を失っていた。
「何があったんですか?」
刺されそうになっていた女性は、腰が抜けて座り込んでいた。
「板長が、突然みんなに襲いかかって…逃げ遅れた私は、上に乗られて刺されるかと…」
(かと…?)
「でも包丁を振り上げてすぐ、板長の顔はいつもの優しい顔に戻ったんです。そしたら…撃たれて…」
淳一が葛藤している理由が分かった紗夜。
ゆっくり近付き、銃を受け取る。
救急車とパトカーが来た。
「警視庁刑事課の宮本淳一と、同じく刑事で妻の紗夜です。状況を説明しますので、淳一を車に。もう少し調べたら行きます」
「ご苦労様です。撃ったのはご主人ですね?」
「はい。あの彼女が、包丁で襲われそうだったので、仕方なく発砲した様です」
気の抜けた淳一は、無抵抗でパトカーに乗る。
紗夜は周りの目撃情報を集め、後から車で練馬警察署へ行った。
板長が狂った様に包丁を振り回し、彼女を刺そうしたのは事実で、なぜそうなったのかは不明であった。
しかし…
目撃者全てが、撃たれた時の彼は、正気に戻っていたと証言した。
富士本には報告したが、淳一の状況はかなり不利であり、今は撃たれた板長が助かる事を願った。
こうして淳一の身は、一旦練馬署に拘束され、取調べを受けることとなったのである。
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