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【X】信頼の崩壊
〜東京台場〜
警視庁凶悪犯罪対策本部。
隣にあるエンターテイメント会社、TERRAコーポレーションから、連絡通路を走る1人の女性。
桐谷美月。
元CIAエージェントの草吹霞である。
ふと、警視庁ビルの前に集まって、連日連夜の座り込みを続けてる集団に目をやる。
関東一帯を束ねる、飛鳥組と傘下の組である。
玄関前には警察官によるバリケードが張られ、正に、一触即発の雰囲気が漂っていた。
ヤクザ側の要求は、組長飛鳥神の釈放であり、彼は警視総監暗殺未遂の現行犯で、拘束されていた。
3階にある刑事課フロア。
部屋にいるのは、3人だけである。
自分のミスで、新任の土門刑事を殉職させ、戸澤刑事もあわやの重体に追いやった。
その自責の念から抜け出せず、カウンセリングと自宅療養をしていた、神崎昴。
この危機的状況に、無理を承知で、刑事部長の富士本恭介が呼び出していた。
もう1人。
ミニスカハイヒールがトレードマークの敏腕刑事、鳳来咲。
汚れたハイヒール、シワのシャツとミニスカ。
虚ろな目でソファーに横たわっている。
そこへ、宅配便が届いた。
鑑識・科学捜査部の部長、豊川勝政宛であった。
豊川も、今はここにいない。
昴が小さな箱を受け取り、刑事課 豊川となっていることに疑問を持つ。
封を剥がして、箱を開けた。
その瞬間、小さく半透明な蝶が舞い飛んだ。
一瞬、なんて美しいと感じる昴。
しかし、それを見た咲が、未開封の丸まった新聞を掴んで襲いかかった。
「こ…のクソヤロウ❗️」
怒りの叫びと同時に、桐谷が入って来る。
開けられた箱と、咲の叫びで状況が分かった。
蝶を追っていた咲の動きが止まる。
「みんな逃げて❗️」
それを見て、桐谷が叫ぶ。
「咲、大丈夫か?」
心配気に、思わず声を掛けた富士本。
「バンッ❗️」「えっ⁉️」
振り向き様、咲が放った銃弾が肩を貫く。
呆然とする彼を、桐谷が飛びついて倒した。
「バン、バン!」
その残像を銃弾がかき消す。
「咲さん、やめて下さい❗️」
デスクに身を隠した昴が叫ぶ。
富士本の撃たれた位置を確認して、壁の時計を見る桐谷。
銃を構えた咲が近付いて来る。
昴に気を取られている隙をついて、桐谷が素早く飛び出す。
こちらに向く腕を取り、引き金に指を入れる。
これで引き金は動かない。
背後に周りこんで膝を挫かせ、咲の手錠を取って後ろ手に掛けた。
「昴さん、もういいわ!」
桐谷が告げて立ち上がり、立ちすくんだままの咲から、銃を取り上げた。
銃声を聞いて集まってきた警官達が、一瞬この事態が飲み込めない。
「私…部長⁉️」
富士本の真っ赤なシャツを見た咲。
手には撃った後の感覚がある。
微かに漂う硝煙の匂い。
「そんな…私が部長を…」
「間違いだ、気にするな咲」
急所は外れているが、出血量とショックで意識が薄れる富士本。
それ以上の言葉は、お互い出なかった。
「咲刑事を連行してください。富士本部長は、TERRAの医療機関に運びます」
既に手配済みで、連絡通路をストレッチャーが向かって来ていた。
「昴さん、大丈夫ですか?」
床に座り込んだまま動かない。
「パンッ!」
桐谷の平手が頬を打つ。
目に生気が戻る。
「霞さん…」
「私はもう霞じゃないの!桐谷美月よ。紗夜さんを呼ぶわ。私はやらなきゃいけないことがあるから」
「みんな…居なくなって。とうとう1人に…」
「シッカリしなさい!居なくなったんじゃなくて、それぞれに頑張ってるんだから、貴方も頑張って❗️凛でも来させるわ。じゃあね」
気になりつつも、出て行く桐谷。
今正に、刑事課のメンバーはバラバラになり、崩壊の危機に追い込まれていたのである。
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