パティシエ修行

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ふつつか者ですが……の定番の返事をしてみたかったのに、 「う……うわぁーんっ」 私の口から出てきたのは、そんな子供みたいな泣き声だった。 ナオくんは私の憧れの台詞や指輪をくれたのに。 私はというと、何一つドラマのように上手くはいかなかった。 「ゆ、ゆづ……?」 ほら、ナオくんだって困惑して―― 「俺との結婚なんて、そんなに嫌?」 困惑どころか、大きな勘違いをさせてしまった。 「……っ」 涙で言葉が詰まって出てこないので、大慌てで首を左右にぶんぶんと振る。 ナオくんが椅子を引いて立ち上がった音が聞こえて、私のすぐ隣に立ったのが気配で分かった。 「本当に? ゆづの旦那さん、俺でいいの?」 「……」 私はまだ言葉が出てこないので、両手の甲で涙をごしごしと拭いながら、今度は全力で首を何度も縦に振った。 ――“ゆづの旦那さん”だなんて。 “俺のお嫁さん”といい、その響きだけでもう失神しそうなくらい嬉しいのに。 なのに、なんで私は泣きながら頷くことしか出来ないんだろう。 「ゆづ。いい加減、こっち向いて」 ナオくんの優しい声に呼ばれて、まだ涙でぐちゃぐちゃな顔のまま彼を見上げる。 「そんなに泣く程嬉しいの?」 「……」 黙ったまま、こくんと頷くと、 「ゆづがこんなことで喜んでくれるなら、もっと早く自分の気持ちに気付けば良かった」 辛そうに呟いたナオくんに、ぎゅっと強く抱き締められた。
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