294人が本棚に入れています
本棚に追加
「初日なんだし、辛かったら遠慮なく言ってね」
「うぅ、ありがとうございます」
舞ちゃんの優しさに涙が出そうになる。
苺のヘタ取りをしながら舞ちゃんに頭を下げると、
「俺のことも頼ってくれていいからね!」
私と舞ちゃんの間に、坂下さんという舞ちゃんの後輩社員さんが割って入ってきた。
手こそは握られたりはしないものの、そのあまりに近過ぎる距離感に思わず一歩後ずさりした。
その時、ふと視線を感じて後ろを振り返る。
厨房とお店とを隔てる壁の一部にカフェスペース内の様子を覗ける小さな窓があって、一人でカフェを利用している男性客とその窓越しに目が合った。
――実際には、彼はサングラスをかけていて本当に目が合ったかどうかは定かではないけれど……
「!」
慌てて下を向いて視線を逸らす様子を見る限りでは、きっと目が合ったのだと思う。
「?」
つい最近どこかで会ったことがあるような既視感を覚えた。
と、そこへ、
「あの……シェフ……」
カフェ担当の女性スタッフが、友季さんに恐る恐る声をかけた。
「ちょっと……様子が怪しいお客様がカフェに……」
聞けば、そのお客さんはコーヒーのみの注文でかれこれ一時間以上居座っているらしく――
そして彼女は今しがた、そのお客さんから2杯目のコーヒーのオーダーを受けたのだそう。
最初のコメントを投稿しよう!