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──明日は彼女を外に連れ出そう。
そう書き込んだ翌日は、朝から生憎の雨模様だった。
雨の中、営業先をいくつも回った僕の上着は傘から零れ落ちた雨粒でまだら模様を描き、革靴の中もいくぶん湿っぽかった。それでも病院へ近づくにつれて次第に雨粒は小さくなり、彼女の病室を訪れたときには、窓の外には晴れ間が広がっていた。
晴れ女を自称する彼女を車椅子に乗せ、エレベーターで一階へ降りる。入院患者を多く抱える病院とあって、東と西の病棟はいずれも大きく、その間にある中庭も開放感のある広々とした造りをしていた。
車椅子を押しながら、遊歩道をのんびりと進む。
雨上がりの澄んだ空気に気分を良くしたのか、僕のハンドル捌きを酷評する彼女の声は明るく弾んでいた。ときおり、前方に水溜まりを発見した彼女が僕に注意を促すけれど、あえて聞こえないふりをしてぎりぎりのところで水溜まりを躱す。彼女が悲鳴を上げる度に、中庭にいる人達が怪訝そうな顔で僕達を見つめていたけれど、彼女も僕もまるで気にしていなかった。
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