ボロボロすぎて同情されていた

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ボロボロすぎて同情されていた

 囚人は態度こそ悪ぶっているが、凶悪犯というわけではない。また骨と皮でできた体は、健康な子供との小競り合いにすら負けそうだ。  だからといって安全とも言い難く、囚人を今も囲んでいる侍女たちは揃ってガタイが良かった。  何食ったらこんなデカくなんの、と不貞腐れた囚人は思った。自分はガキの頃からロクに食べられやしなかったので、身長は150とかなり小柄だ。それでも若い奴の中では高い方だった。 「あなたの全身にはどこもかしこも傷がありますから染みますよ」  一人がそう言ってボロ布を頭から脱がせた。 「まぁまぁ随分と骨が浮いてますねぇ。皮膚が薄いから洗ったら出血するかもしれませんよ」  別の一人が胸当ての紐を解いた。 「水浴びもほとんどしていないようですから、入る前にきっちり汚れを落としたいんですけど…諦めてタライにしましょう」  また一人が囚人の背中を押して扉を開けた。 「まずここで体を洗って、ある程度キレイになったらあちらの湯船で…え、タライ? すぐに取りに行きますね! 少々お待ち下さい」  更に一人がどこぞへ消えた。  何人いるんだよ、と囚人は呆れを滲ませつつ、罪人のはずの自分が高待遇を受けている事実に付いていくことができなかった。  手違いだろこンな… 「っぅぁああっ!!」  とてもよく染みた。  囚人が唸り侍女たちが励ましつつ汚れを落とし、ようやくタライへと移動する頃には、血や泥などで赤と茶色に染まった水溜りができていた。  ぷくりぷくりと泡が弾けそこへ浮かび、「やれやれ一仕事終えたね」と侍女の一人が水で洗い流す。  排水溝へと吸い込まれていく汚れを何となしに眺めていた囚人は、傷に配慮されたぬるい湯に対し風呂とはこういうものか、との感想を抱いた。時折誰かが濁った冷水を運んできてそれを頭から被っていた以前を思えば、何とも贅沢な話だ。  汚れたからって、ただ捨てるなんてもったいねぇ。あの汚れた湯の流れてった先は、どこへ繋がってんだ?  領主は、あの後どうなったんだと不意に囚人は疑問に思った。突然わけのわからないことを口走りだして、困惑している間にこの風呂に連れ込まれた。  改めて思い出してみると、どうやら領主は自分をすぐさま殺したいわけではないらしかった。逆にアイツを守りたがってる連中は、アタシを邪険にしてるが。  じゃあなぜ、村でとっ捕まってたアタシをわざわざ運んだんだ? この平和な街一番の重罪である餓死刑にすればよかったろうに。その場合、アタシは村の牢屋でミイラになってただろーな。 「そうそう貴方、領主様御一行からこの館に招待されたって聞いたけど、一体何しに来たんだい?」  タイムリーすぎる侍女の質問に口元を引くつかせた囚人は、「アタシが聞きてえ」と返事をして黙りこくった。  複数いた侍女たちは目線で「一体全体何が何なんだ」という疑問を打ち合っていた。
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