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エレベーターのドアが開き、乗り込んだ祐一は1階に降りるためにボタンを押す。
明日は天気が良さそうだから布団も干すかな~。シーツも1週間洗ってないし、と所帯じみたことをブツブツ呟きながら1階に降りて出口を目指す。
もちろんビルの出入り口の受付嬢も帰っている・・・筈だった。
何時もの素っ気無い受付嬢ではなく、初めて見る顔だ。
年の頃は20歳過ぎたばかりだろう。
――新人かな? 早く帰ればいいのに。
この会社では、受け付けの女の子の仕事は6時までとなっているはずで、遅くまでいる必要は無いのである。
残業手当だって出ないのだ。
もっともそんな事を考えている祐一は、サービス残業の常連ではあるのだが・・・
一応声をかけてから帰るか、と思いながら受付に
「お疲れ様」
と声をかけ、新人さん? の顔をちらっと見た。
「!?」
美人である。
いや、それ以上に吃驚するのはどう見たって日本人じゃない。
色白だなあ~、と遠目に確認はしていたが髪の色が黒かったので気が付かなかったが、瞳の色が緑色だった。
うちの会社もえらくグローバルになったもんだと一瞬感心したのだが、いつも愛想の無い受付嬢に退社時間を教えてもらえなかったのかもしれないと考えた。
「君、早く帰りなよ、ここの受付は6時で終わりだから。こんな時間まで残る必要ないんだよ」
とまあ、お節介かなとも思ったが部署は違っても一応は上役なので声をかけてみる。
「有難うございます。新人なので知りませんでした」
「先輩に習わなかったのかい?」
「用事があるとかで、早退されたのです。今日が初日でしたので色々手間取りまして。日報を書いたら帰ろうと思います」
流暢な日本語で返された。
「書き方分かる?」
「ハイ。一応は」
カウンターに近寄り手元を覗くと書きかけの日報があり、ほとんど書き終わっていた。
因みに隣のページの前任が書いたものよりずっと書き込んである。
「その程度書けてたら上等だよ。自分の名前を記入者の欄にサインして、早めに帰りなさいもう遅いから。次から日報は5時半頃から書き始めるといいよ」
そう祐一が言うと、彼女はニコリと花が咲いたように笑い、嬉しそうに
「ハイ」
と返事をした。
彼女がカウンターの下に引っ込み、日報を片付け始めたのを確認してから
「じゃあ、お先に」
と言って、正面玄関に向かおうとすると
「お疲れさまでした」
カウンターから声が掛かった。
ちらっと振り返ると彼女が手を振ってくれていたので照れくさかったが、手を振り返して外に出た。
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