僕と殺し

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僕は会社に出勤して自分のフロアに掲げられている先月の業務成績の張り出しを見ていた。 右肩上がりのグラフの一番右に自分の名前が。 そして自分の名前「隈部結城(くたべゆうき)」に折り紙の花が添えられていた。 ま、こんなもんか。 と思っていたら声を掛けられた。 「隈部おはよう」 「あぁ、おはよう」 「営業エース様が、態々こんなの見なくても今更だろ。出来る男は違うねぇ」 ふふ、おめでとうと、そして何か奢れよと、同僚の定家(さだいえ)は人懐っこい顔で僕の肩に手をかけてきた。 中肉中背、誰にでも打ち解ける愛嬌の良さ。 顔もビーグル犬みたいな大きな目が男女共に話しやすいムードメーカーみたい奴だった。 僕はこの定家の距離感は嫌いじゃない。 遠巻きで嫉妬してくる奴らよりよっぽど気持ちがいい。 だから、ここに入社してから定家は僕の良き同僚だった。僕は笑いながら。 「やだよ。前も奢ったし、この前は奥さんが里帰り記念とか言って寂しいから奢れとか言って、ちゃんと奢っただろ」 「いやいや、今度は子供が生まれるから何かと金が必要なんだよ。万年平凡成績の俺は隈部様にあやかりたいんだよ。あと、この前カノジョと歩いていただろ? 皆にはナイショにしていてやるからさ」 ニヤニヤと笑う定家。 ──おや、あの女と居るところを見られたか。 やはり、会社近くのホテルを利用するのは止めておこう。 もう、あの女とも会わない。 そう思いながら、瞳を伏し目がちにして。 「彼女はそんなんじゃないよ。僕の悩み聞いていてもらっただけ」 「隠すな。隠すな。営業部きってのエースで、色男のお前にカノジョがダース単位で居ても俺は驚かないぜ。でも、悩みがあるならちゃんと聞くから言えよ」 ふいに、ニヤついた顔から真摯な顔になる。 こういう所が定家の良い所だと思った。 何なら今日聞こうかと? 定家は聞いてくる。 「でも今日は大事な予定があるんだ。それに、悩みなんてどうしたらいいかはもう分かっているんだ。でも、困ったら相談するよ。ありがとう」 「ん、ならいいぜ。さ、今日も仕事を頑張りますか」 そうだねと、僕も頷きその場を後にした。 定家、実はね。 僕にカノジョと言える存在はただ一人だけ。 くーちゃんだけ。 定家が見た女は──複数居る性欲処理の相手。 そんな事を言ったら定家はどんな顔をするか見ものだと思った。 ちょっとワクワクしてしまったが、言えないに決まっている。緩む口元を隠して自分のデスクに向かった。
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