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5.ルームシェアを依頼する
蓉平は父の結婚相手及び義弟と会った後、すぐに従兄弟の隼一に電話で相談した。
隼一は車で15分ほどの所に住む一つ年下のアルファで、蓉平をたまに外へ連れ出してくれる。
彼は昔から食通で、それが高じて現在美食評論家兼コラムニストとして各種メディアで活躍していた。そして何と言ってもものすごい美形だった。彼と一緒にいるときは向こうに視線が集まるから、こちらは気楽にお茶や外食をすることもできた。
「もしもし、隼一?」
『どうした? そっちから電話してくるなんて珍しいな』
「今大丈夫?」
『ああ。何だ』
「聞いてよ、僕の父さんが結婚するんだって!」
『伯父さんが? へえ、良かったじゃないか』
「ちっとも良くないよ!」
『なんだよ。父親の結婚に文句があるのか?』
「違う、結婚はいいんだ。だけど問題なのは奥さんがうちで暮らすってことなんだよ」
『ははぁ……なるほどね。新しいお母さんが出来るのが気まずいって言うんだな?』
「まあ、そんなとこ」
『で? どうするんだよ』
「どうするって?」
『お前はそのままそこに住む気か?』
「それが……一人暮らししたいって言ったら父さんにダメって言われて」
『ふーん、伯父さんはまだあの時の事を気にしてるのか?』
「うん……」
隼一は身内なので蓉平が引きこもりになった理由も知っていた。それ以来父がすごく過保護なことも。
「しかも、結婚してうちで暮らすのは父の恋人だけじゃないんだ」
『何?』
「子どもがいるって。大学生の……アルファの男の子」
『――ああ? アルファだって?』
いつも動じない隼一でもこの件には驚いたようだ。
「うん……さすがに今はもう見知らぬアルファに拒否反応示すことは無くなったけど、この歳で引きこもりのくせに兄貴面出来るほどメンタル強くないっていうか……」
『はぁ、なるほどねぇ。そりゃ俺でも嫌だな』
「でしょ? それで隼一に頼みがあるんだよ」
『何だ?』
「僕とルームシェアしない? 隼一のマンション、部屋余ってたよね?」
『はぁ? だめに決まってるだろ』
「ええっ、だめなの!?」
従兄弟の家に一緒に住むなら父も許してくれるだろうと思っていたのに。
『お前な……いくら従兄弟だからってアルファの家に転がり込もうなんてどうかしてるぞ』
「だって、赤の他人のアルファと住むよりマシでしょ!? ねえ、お願い! そのうち父さんを説得して一人暮らしの許可が貰えたら出て行くから。頼む、家事でも何でもやるから!」
蓉平は祈るような気持ちで頼み込んだ。隼一はちょっと困ったように咳払いして答える。
『――悪いが本当にだめなんだ。実は今、余ってた部屋に一人寝泊まりしてて』
「えっ! 隼一部屋に人呼ぶの嫌いなのに誰かと住んでるの!?」
『――住んでるわけじゃない。ちょっと仕事の都合で……週末に人を泊めてるだけだ』
彼にしては珍しく歯切れが悪い。しかも、仕事で人を泊めるって何――?
「もしかして恋人?」
『……そういうんじゃない』
「え、何今の間は? 怪しい! 恋人でしょ。何で隠すの? 別に今までも恋人なんていたじゃん。でも部屋使わせるなんて珍しいね、もしかして本気のやつ? あ、わかった! 片想いなんだ?」
『うるさいぞ。とにかく、そういう事だから部屋は貸せない。大人しく実家で新しい家族と仲良くすることを考えるんだな』
(否定しない。うわー、あの隼一が本気で入れあげてるんだ……)
「冷たいなぁもう。そんなんじゃ好きな人に逃げられるからね。ちゃんとその人には優しくしなよ。隼一、それでなくても近寄るなオーラがすごいんだから」
『ちっ、わかってるよ。お前こそ俺に頼ってないでそろそろちゃんと相手見つけて結婚しろ。そしたら家を出られるだろ』
「あー、はいはい。父さんみたいなこと言わないでよもう。じゃあ、うまく行くと良いね~バイバイ」
『そっちもな。じゃあ』
(はぁ~~、当てが外れた。隼一の部屋に転がり込もうと思ったけど作戦失敗! もう打つ手無しだな……)
自分でも、従兄弟に頼ってないでちゃんと自立して外に出ないといけないのはわかっているのだ。しかし父は一人暮らしはさせてくれないし、かといっていきなり結婚相手を見つけるなんて無理だ。
「困ったな……」
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