おまじない

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おまじない

「なに、どうしたの?」  咄嗟に腕を掴まれて芽依は少し動揺する。 「いや、ごめん。──ちょっとオレ変なのかもしれない」  その言葉に芽依は微笑むと自分を握っていた手に自分の手を添えた。 「ミヤもたまにはコンクール前でナーバスになっちゃったとか? 普段『ふふん』みたいな感じなのに」  普段は勝気な態度をとる雅を見ているので、気弱なのは珍しい。芽依はそんな雅を素直に『可愛い』と思った。 「仕方ないなぁ~、私がおまじないしてあげる」  離した雅の掌を芽依は両の手で包み込み目を瞑る。 「大丈夫、ミヤは今度も一位取れるから……心配しないで」  そう言葉を添えると、目を開けた芽依の瞳が真っすぐ雅を捉えていた。 「もう大丈夫でしょ」  それはいつも雅にするおまじない。でもいつもと違うのは……芽依の瞳は悲しい彩を浮かべていたことだった。  雅は芽依がコンクール恐怖症になってしまったことを誰よりも心配していた。あんなに生き生きとフルートを奏でていた芽依の音に色が無くなってしまった感じだったのだ。  そのことが何よりショックだったのは芽依自身だったのを、雅は一番傍で感じ取っていた。  何も言わず雅は芽依を抱きしめる。 「芽依、無理しなくていいんだぞ」  その言葉に芽依はいつも勇気づけられていた。 「ミヤが私を応援してくれているから、私はフルート続けられるの」  芽依は雅の背中を優しく撫でる。なぜだが雅はそんな芽依から離れようとはしなかった。 「ミヤ、今日は私帰るよ。曲はほぼ良い感じだし……コンクールには私も応援に行くから」  雅は芽依を抱きしめていた腕の力を緩めた。芽依が再度雅を見てニコリと笑う。  そして芽依が部屋から出て扉をパタンッと閉めた。  扉の前で立ち止まると、芽依は無意識に溜息を洩らしていた。
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