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第三章 核心
「そう。人ってね。肉体の年齢と魂の年齢があるの」
聞いたこともないようなことを
さも当たり前のように言う
志音は、柔らかな微笑みを
浮かべたままだ。
「魂の年齢…?」
「そうよ。あなたは、ご家族より『魂年齢』が高いのね。だから今世は、家族で苦労するっていう学びなの」
淡々と話を続ける志音に
優莉は、どうも納得がいかない。
「あの…私はそんな…だって、私は姉みたいに、勉強ができたわけでもないし、勤めてる会社だって普通の所で…」
わかっていると言わんばかりに
志音は、頷いてゆっくりとした
口調で聞いた。
「今、ご実家暮らしよね?」
その様子に応じるように
優莉も、ゆっくりと答える。
「はい。あまりお給料もよくないから、家を出るのも…その…心配で」
「そう。じゃあ、それは置いといて。本当は優莉さんは、どうしたいの?」
志音は、両手を
テーブルの上で組むと
ジッと見つめた。
濃い睫毛とアイラインに
縁どられた大きな目は
エジプトの象徴である
ホルスの目を思い起こすほどに
美しい。
ドキリとした気持ちを
一度飲み込んでから
優莉は、口を開いた。
「やっぱり、出たい…かな」
「そう。でも、心配ってとこなのね」
優莉はコクリと頷いて
下を向いた。
「大丈夫よ。あなたは自分が思っている以上に、大人だから」
クスリと笑う志音の声に
優莉は、おずおずと顔を上げた。
「それに、あなたはお金じゃない『プライスレスな価値』を知ってる。あ、もちろんお金も大事よ」
そう言ってから
志音は組んでいた腕を解いて
軽く握った右手の指の上に
顎を乗せた。
「でもね、人が惑わされて見えなくなりがちな『本当の価値』をあなたは、わかってるはず」
「…はぁ…」
いまいち理解の及ばない優莉に
志音は、また微笑んだ。
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