第1章 自己肯定感(始)

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第1章 自己肯定感(始)

駅の出口に 押し寄せた人の波の中を 斉藤優莉(さいとう ゆうり)は 家路へと漂っていた。 時計の針は 午後8時を差している。 このところ、 忙しかった優莉にとっては これでも、珍しく早い 帰宅時間だ。 早くベッドに 潜り込みたい気持ちと 早い時間に 帰宅することで 折り合いの悪い姉の帰宅時間に 間に合ってしまうことへの 嫌悪感を感じて 歩みが戸惑う。 姉と折り合いが悪くなったのは いつからだったか…… もう思い出せない。 姉は、子供の頃から優秀で ピアノもできて、何でも そつなくこなすことができる人。 だから、とんとん拍子の人生で 今は 大手有名企業に勤めている。 対照的に、勉強が嫌いで 何も特技がない優莉は なんとか今の会社の営業事務の 就職にこぎ着けた。 そんなだからか 二人に対する両親の態度が あからさまに違う。 優莉は、家を出ることを 具体的に考えようと思い始めていた。
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