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帰宅すると、優莉は
リビングにいた両親に
「ただいま」を伝えた。
母は、洗い物をしながら
一瞥して返事をし、
父は、新聞で顔が隠れたまま
「おかえり」を伝えてきた。
それは
いつものこと。
なんてことはない。
しかし、その直後
間の悪いことに、姉が帰宅すると
両親は顔を綻ばせ、
二人で、労いの言葉を口にし出した。
「遅くまで、お疲れ様だったね~」
「ご飯は、食べたの?お腹空いたでしょう?」
優莉の帰宅時間は
いつも もっと遅いのだが
そんな言葉をかけてもらえることは
ない。
代わりに
かけられるのは
罵倒とも言える
言葉だった。
「この時間まで、何やってたんだ? 残業? 金にもならないのにか?」
優莉の会社では
残業手当というものがない。
営業成績によっては
給料が上がることがあるけれど、
それがないことが
そこでは『普通』のことだった。
それを知った両親は
優莉が遅く帰宅して
顔を合わせると決まって
こんな言葉を浴びせてきたのだった。
優莉は、自分の部屋へ向かう
階段を登りながら
姉にかけられている言葉を
どこか遠い世界のことのように
ぼんやりと聞いていた。
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