第1章 自己肯定感(始)

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帰宅すると、優莉は リビングにいた両親に 「ただいま」を伝えた。 母は、洗い物をしながら 一瞥して返事をし、 父は、新聞で顔が隠れたまま 「おかえり」を伝えてきた。 それは いつものこと。 なんてことはない。 しかし、その直後 間の悪いことに、姉が帰宅すると 両親は顔を綻ばせ、 二人で、労いの言葉を口にし出した。 「遅くまで、お疲れ様だったね~」 「ご飯は、食べたの?お腹空いたでしょう?」 優莉の帰宅時間は いつも もっと遅いのだが そんな言葉をかけてもらえることは ない。 代わりに  かけられるのは 罵倒とも言える 言葉だった。 「この時間まで、何やってたんだ? 残業? 金にもならないのにか?」 優莉の会社では 残業手当というものがない。 営業成績によっては 給料が上がることがあるけれど、 それがないことが そこでは『普通』のことだった。 それを知った両親は 優莉が遅く帰宅して 顔を合わせると決まって こんな言葉を浴びせてきたのだった。 優莉は、自分の部屋へ向かう 階段を登りながら 姉にかけられている言葉を どこか遠い世界のことのように ぼんやりと聞いていた。
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