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そう話している間に
車はロータリーを抜けて
紅葉した並木道に入った。
左にカーブした坂を登ると
住宅街が広がっている。
真新しい住宅街を抜けて
坂の頂上を過ぎ、
信号を右折する。
空地がポツリポツリと
目立ってきた辺りで
車は、角の家で車は止まった。
「こちらです」
志音は慣れた様子で
さっと車を止める。
お礼を言って
車を降りると
見覚えのある三角屋根が
目に入った。
視線を下げると
レンガに支えられた
黒い門扉が構えている。
すると、レンガの柱の上で
黒いものが動き、大きく伸びをすると
ヒラリと家の敷地内に消えた。
「あの黒猫ちゃん…?」
志音は、それに
触れることなく優莉を招いた。
「さぁ、どうぞ」
門扉を入ると、
両脇から出迎えてくれている
コスモスが風に揺れる。
志音が、大きな木製の玄関を
開けて向かい入れると、
アプローチと同系色の
ベージュの畳石が並んでおり、
少し黒味を帯びたフローリングには、
柔らかそうなスリッパが用意されていた。
「少しお話をお伺いして、それからお食事にしましょうね」
その言葉で、初めて
志音をまじまじと見上げた。
180センチは
優にありそうだ。
ロングの軽くウェーブした髪を
緩く束ね、コーデュロイの
手触りの良さそうな黒い生地に
異国を思わせる、大振りの花柄の
ロングワンピースが、彫りの深い顔に
よく似合っている。
誰しも、その隣に
並ぶことを嫌がりそうな
美しさだ。
優莉が、そんな風に
思っているとは、全く
感じない様子で、志音は
にこやかに案内をする。
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