龍肉のシチュー

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「おい姉ちゃん、これ作った奴を呼んでくれるか」 「なんだこの料理は!シェフを呼べ!」 「すみませんがシェフを呼んでください。こんなものを客に食わせて、一体どういうつもりだ!」 その後も、シチューを注文した客の多くはシェフを呼び出し、一様に問い詰めました。 文句を言う人、疑う人、怒る人。 果ては、厨房を見せろという人までいました。 しかし何度聞いても、これは間違いなく龍の肉ですと繰り返すシェフに、客はみな呆れて帰っていきました。 そんな日が続くうち、海原亭の龍肉シチューは、話題づくりのためにシェフがでっちあげた嘘のメニューだという噂が広まっていきました。 兎やら羊やらの肉を適当に混ぜ合わせて、それっぽく見せてるんだろう、と。 ニーナは悔しくてたまりませんでした。 シェフはそんなことをする人じゃないのに。 誰よりも真面目で、料理に真剣な人なのに。 その本人が、何も言い返さないのがまたもどかしいのです。 1日の営業が終わると、休む間もなくシェフは龍肉の仕込みに入ります。 疲れているはずなのに、瞳だけがらんらんと輝いていて、何かに取り憑かれたように料理を始めるのでした。
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