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❁ Ⅹ ❀✿❁❀ ✿
…… 誰か! 古井さんよりも
強い人 呼んで下さい!
ここで! これ視て
注意して下さい!……
―
『 おかえりー!』
「 おかえりなさいませ 」
「 只今戻りました 」
… ペコリ
頭を下げても髪は 乱れず 高級スーツ
に身を包んだ男性は フロントに丁寧な
口調で挨拶すると2重ロックされている
エントランスを通り ご自分の部屋へと
上がられる
―
このマンションは
都心の一等地のタワマンで大手不動産管
理会社が管理している
グレードの高い仕様の高級マンションだ
けど分譲ではなく 定期借家契約での
かなり高い家賃 で 貸し出されていて
だから
ここの入居者は 法人契約で入いる方々
がほとんどで ごく一部が 個人契約の
方々だけど
その個人で契約の場合 ここの高い家賃
の " 3倍以上の月収 ” が ないと
借りる事はできないから その方々はと
ても 高所得者 の 方々で …
そんなフロントサービスつきの高級賃貸
物件 建物は都市型タワーマンションの
グッドデザインアワードにも輝いた処
なの です が …
先ほど エントランスホールに大きな声
が響き渡ったとおり
なぜか そのフロントには かなりの
貫禄を出した コンシェルジュが 黒光
りする大理石フロントカウンターの上に
自分の飲みかけの ストローの刺さった
コーヒーカップを堂々と置き
それをチビチビ飲みながら 椅子に腰か
けたまま 自分の前を通り過ぎるご入居
者様にちゃんと声が届くようにと ?
大声で乱暴にも聞こえるワードで声掛け
をしているのです
その横 に 腰かけているワタシは
それに首を傾げるのですが
… このひとなんなんだろ …
ワタシと古井さんはコンシェルジュで
ご入居者様対応のために ここに居て
古井さんはこのマンションが建った頃か
らここに居るコンシェで いまの管理会
社ではなく前の管理会社の協力会社で採
用に なり
そのまま管理会社が変わってもここに居
るので 今年で17年目だそうで
新人のワタシは1年目 で それに
さらに ここに入る前から 古井さんは
ほかの処でもほかの仕事をしていたから
かなりの 大 先輩 で でも
本人は 知らない らしい の ですが
古井さんも いまは
ワタシと同じ会社に所属している
コンシェで
その中で この
古井さんは 一番 時給が低いのです
それは どうしてなのか …
それが ワタシには 不思議だったの
です けれど
この高級マンションに この古井さんが
コンシェとして入っている事も
実は ワタシには不思議に思う事が …
それは
ここにワタシが配属になったから
それを目の当たりにしてしまったわけで
なので きっと
管理会社は知らないのです …
この世の中って
そんな廻り方をしているのですね
それを目撃する度
毎日が驚きでした
古井さんは ここに17年も居るのに
その時給は都の " これ以上の金額はあ
げてください ” の 最低賃金と同じです
マンションコンシェルジュ求人をご覧に
なると分かるのですが その時給は
建物のグレードや立地により違っていて
それに 本人の持つスキルも関係し配属
が決まり
なので ワタシが戴いている時給は
ありがたい事にかなり高いのですが
なので 古井さんとの差も大きく
だから なんだ か 不思議なんです
まぁ … ここは
分譲マンションよりも
フロントのサービスの種類も少なくて
共用施設のゲストルームは一室だけで
パーティルームやカラオケルーム リラ
クゼーションルーム シアタールーム
に 時間貸のゲスト用駐車場などもない
ので その ご予約受付 とかも なく
なので コンシェの仕事も その分
ほかよりも 楽で なのですが
ですけど
ふたりは同じ仕事をしているのに ?
しかも ワタシ 1年目なのに ?
おかしいですよね
それも不思議 で … だし …
古井さんの勤続年数が長いわりには時給
が上がっていかない事も不思議なのです
だって 労働契約書には
" 昇給は有り ”
になっているのですし
不思議に思いますよね 都の最低賃金の
見直しがあった時にはそれに合わせ上が
ったそうですが ずっと ずっと 古井
さんの時給は変わっていないんです
だったら
1年毎の契約更新の度に
古井さんは それ
気にしないのでしょうか
それとも
古井さんの契約書にはその記載が無いの
でしょうか 見せてもらっていないので
すが そんな事 あるのかな …
ワタシは それでは この仕事を続けて
いくのに不安すら感じますが
なぜ 古井さんは その時給でこの仕事
を続けているんでしょうか
古井さんは 不思議です
けれど ここで働いている と
それでも なんとなく
気づいてくる事が あって
まず
古井さんは ここで 業務外の事で
商売をしていたのです
ここは 賃貸なので 入居者の出入りが
あって 期間が決められた契約なので
とうぜん 退去もなんどもあります が
その 時には
粗大ごみも 大抵 発生します
その 粗大ごみに関しては
コンシェのお仕事ではないのですが
古井さんは
それを請け負ってしまうのです
でも 古井さんは小さくて 力仕事はで
きないし PCもできないので隣のコン
ビニへ “ シール ” を買いに行くだけで
その後の手配や移動などは管理人さんが
しているのですが
その際に 古井さんはPC作業ができな
いので リストや金額の見積りもなく
なので
ザックリとしたキリの良い金額を
ご入居者様から渡されるので
多くの場合
差額が生じるのです
しかしそれは
ここのご入居者様は裕福な方々なので
不足分が出ないように多めに 古井さん
へ渡すのですし 退去した後には その
差額をワザワザもらいに戻って来ません
世の中ってそうなのですね
古井さんは たくましいです
いまはどこでも ? 副業も認められてい
る会社も多いので これはもしかしたら
そうなのかも ? しれません ? が ?
古井さんの横に座っているワタシだけが
これに気づいてしまったようです …
ちなみに ワタシは
業務以外の事は致しません
… すごいな 古井さん
「 悪いけど 私!
( 管理会社 ) から
ここ任されてるからさ!」
が 口癖の古井さんです
それに
生活力もたくましくて
コンシェはご入居者様と同じサービスを
受けてはいけないのですが
古井さんは ここに長いので
そうした協力業者の人たちに対しても
強い立場にあって ? ここに入ってい
る クリーニング業者に 自分の私物を
半額の料金にさせています
自宅から
ここまで電車通勤なのにワザワザ持って
くるのです
すごいです どうやって この業者と
話をつけたのでしょうか
「 悪いけど 私!
( 管理会社 ) から
ここ任されてるからさ!」
これを
あちらこちらに謂うのです
たくましいです …
なので 年末年始 季節ごと ?
古井さんには業者からの付け届けが …
それは ここのstaffへの差し入れでは
なく 古井さんへのモノのようで 業者
さんからも「これ!古井さんに!」 と
渡されます
けれど それは そうだとしても ?
ご入居者からの差し入れの場合でも
古井さんが居ないときに たとえ
「これ皆さんで…」っと 云われたので
ほかの者がうけとってしまって それを
皆で分けようとその箱を開けてしまうと
「 それは
個人で ( 古井さんの )
もらってるものだからさ! 」
っと わざわざ?
古井さんに 怒られます
なぜ そうなるのでしょう
恐いです …
その! 意味が解ったのは
それからスグの事でした …
古井さんは 戴きモノのお菓子などは
親しい一部の ご入居者様のお子様へ
自分からの様に配っていたのです
なので ?
その方々からも また お返しを戴いて
いますし いつも
そのようなフロントでの様子を
堂々と横に居るワタシにも
みせつけ 自分の存在感を出し
なので ここのご入居者様と
そんな " 特別な関係の古井さん ” は
ここのご入居者様からの差し入れは全て
そんな特別な自分のモノだと思っている
ようなのです
世の中 このお菓子の様に
そうやって 廻っているのですか ?
けれど
ここのご入居者様は裕福な方々なのに
そのお菓子を古井さんから渡されても
それに 好みもありますでしょうし
アレルギー面などでも その行為は
『 はーい!
これ! あげる! 』
っと 大声で!
強く 差し出されれば その横で
ワタシも それを観ている ので
それでは 逆に ?
そのご入居者様も断りにくい雰囲気で
一方的すぎて 有難くも ない様にも
ワタシには 思えるのですが
古井さんは ここのそんなお仕事 ?
全てに
" 信念 ” を持っているようで
「 悪いけど 私!
( 管理会社 ) から
ここ任されてるからさ!」
「・・・・」
ゼンブの事に関わらないと
気がすまない様です
ちなみにワタシは
ご入居者様とは特別なお付き合いは
致しません し!
古井さんのこれに
なにも言えません!
なので これらのほかにも
古井さんは
ここのご入居者様のために と
これは
ここの建物のグレードに合った
二人がけ用の幅広の大型な 存在感の
ある重厚で高級な
フロントカウンターで
この建物に入る前からも
その外からも見える
カウンターの前面なのに ?
ここのかも分からない
風の強い日に
外に落ちていた落とし物の
それは地面に落ちていたから拾われた
洗濯物のパジャマや上着や シャツを
ガムテープで 黒光りしている
大理石に 大きく広げて 貼り
『 ここを通れば
気づくからさ! 』
っと そのまま 落とし主の申し出が
あるまで 貼りだしつづけているのです
が!
何日たっても
誰からも申し出はありません
きっと 入居者以外にもいろいろな人の
通るエントランスホールのカウンターに
そんなふうに さらし物のようにされて
は 恥ずかしくて 「自分のです」とは
言えないのだと思います それに
そんなに 多くの他人に見られたものを
二度と 着たくはないですよね
なので あんまりな 事態なので
何日か " 我慢 ” した後
ワタシは こっそり 片づけます
そのころには 古井さんは もう
自分でした事なのに これを
忘れています
でも また 落とし物があれば
きっと同じことをするのでしょうが …
「 悪いけど 私!
( 管理会社 ) から
ここ任されてるからさ!」
な 古井さんには
なにも言えないワタシです …
『 おかえりー! 』
今日も ここは 広くて 冷えるのか
寒がりな古井さんは猫背で小さくなり
ポケットに手を突込んだままですが …
見晴らしの良い開放的なエントランスの
大きな自動ドアが開いた とたん に
その大きな声は
ここでしっかりと 響いています
「 ふぅ---- 」
『 なに ?』
「 … いえ 」
そして
とうとう …
或る日
それは突然
会社からのメールに 衝撃を受けた
ワタシです
" コンシェルジュへの重大注意事項 “
入居者様から
クレームが入りました …
その内容は 明らかに ワタシが目撃
している古井さんの日頃の行動によるも
のでしたが
会社は それを把握していないので
ここに勤務している
コンシェの全体責任としたのです
ですが
この " みな平等 に ” な
全体責任 ですが
ワタシは
古井さんとペアを組んでいて
先に申しました通り
1年目の 新人ですし
シフト勤務なので ここにはほかにも
コンシェが 居て です が
このとき気づいたのですが
その 他のペアのコンシェも
全員 ほぼ 新人 で
ここは
古井さん以外のコンシェは
入れ替わりが多く
ワタシは それ にも
いまさら 驚いた の ですが …
古井さんは 今回のそれを
そのまま普通の回覧の様に受け取り
特に反省する事もなく
ワタシに 「 宜しく!」と
その書類を 回したのです
… え-------!
ワタシ(新人たち)の
事じゃないのに-----
… え-------!
日頃の古井さんの あの!
著しく本来の業務から逸脱した!
自分アピール と!
スタンドプレー を!
ワタシ しっかり!
目の当たりにしているのにぃ ?
… え-------!
"「 悪いけど 私!
( 管理会社 ) から
ここ任されてるからさ!」”
って いっつも 云ってて!
ここの責任者 ? の ? はず
なのにぃ ?
なのに ?
しかもこれ!
ぜったい! ぜったい!
古井さんの事なのに
" 宜しく ” って ?
… え-------!
タニンゴトじゃん!
ぅ--- わ! でも その様子
ワタシしか 観てないし!
だから!
古井さんが自身で認めないと
これって証明できないじゃん!
なら ? これってやっぱり ?
全体責任なの ?
… え-------!
だれか 助けてぇ----!
ワタシのメンタル は …
もぉ-----
そうだよね …
よくよく考えれば
ワタシの前任も
1年くらいで辞めてるし …
これだから
皆 辞めちゃうんじゃないの ?
なのにこんな " 全体責任 “ って ?
こんな書類だけ廻されても
これ 古井さん以外 ここに は
まだ " マニュアルに忠実な ”
新人しかいないのに
この " 重大注意事項 ”
を全体責任と謂われましても
絶対に新人たちには
関係ないし
古井さんがこれじゃぁ!
責任とれません …
" どうにかしてください ! ”
"「 悪いけど 私!
( 管理会社 ) から
ここ任されてるからさ!」”
それ ! それ !
いま ! 謂って下さい よ !
この書類に " 認 印 “ ?
" 確 認 印 “ ?
押印したくありませぇ----ん !
? どうしらイイのぉ----- ?
ぅ! だめだ! も!
ワタシ! 壊れ るぅ-----!
この古井さん に!
" 注 意 ” できる人!
どこに ? 居ますか ?
だれか お願い!
いますぐ! 呼んで下さ--- い!
―
『 おかえりー!』
「 … … 」
…スタスタスタ…
「 オカエリナサイマセ…」
… ぁ ~ あ …
…… なんでこれ解んないんだろ ……
も! 違いますよ 古井さん!
ご入居者様 怒ってますよ!
" おかえりなさいませ!”って
マニュアルに記してありますよ!
―
「 ふぅ------ 」
『 なに ?』
「 … いえ 」
―
そして 先日 …
さらに 驚きの新事実が …
社会人経験のある方は きっと
お分かりだったのかもしれませんが
ワタシはまだ新人で だし …
古井さんからも事あるごとに
あまりにも そして なんども
なんども 聞かされていたので
すっかり そうなのだと
ですが …
この! 古井さんの キメ台詞
"「 悪いけど 私!
( 管理会社 ) から
ここ任されてるからさ!」”
は … ですよ …
管理人さんから聞いたのですが …
これは
もうずいぶんと前
管理会社が変わった時に
訪れた当時の担当者が
帰り際の " 挨 拶 ” に
『 じゃぁ!
古井さんお願いしますね!』
と云ったそうで …
それが こんなに 古井さんが
いまでも
最強に各方面へ有効的に使っている
あのキメ台詞 の " 真 相 ” ?
だ と ? の 事で …
だから 管理人さんたちは これ!
聞き流す程度の事 なんだとかで ? …
ワタシはそれを聴いたとき
余りの衝撃に クレームのときよりも?
ダメージが大きく? めまい が …
「・・・・」
… だったのですが
もし!これがそうなら …
管理会社の人たちは 誰も
古井さんがこれを云い続けている事すら
たぶん … で
いまでは担当者も代わっているだろうし
そんなこと引き継いでもいないだろうし
おそらく
解っては いないと思います …
この世の中って そうなんですね …
ほんと びっくりです …
『 だれか ------!
ここ!お願いしま --- ス!』
と! 叫びたい ワタシ です …
―
『 おかえりー!』
「 … … 」
…スタスタスタ…
あ … スミマ セ ン …
ワタシは ただ俯いてしまい
「 ふぅ------ 」
『 なに ?』
「 … いえ 」
―
そうです
古井さんはたくましいのです
そして …
そんな 古井さんは
今日も …
ここのご入居者様のためにと
頑張っておられます
「 あれ?
古井さん?
あ の ぉ … え ?
このセロリは?」
今日は なぜか セロリが …
カウンターの上に置いてあります
「 ん? あ ! これ?
外に落ちてたからさ!」
「 え?
落ちてたんですか?」
「 ん! だから!
ここに出しておけば!
気づくからさ!」
「 あ のぉ … 」
… せめて 冷蔵庫に …
入れといてあげましょうよ …
ねぇ … 古井さん ?
セロリさんのために …
「 ふぅ------ 」
『 なに ?』
「 … いえ 」
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