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 スマホのメッセージアプリは、私の仮面に(せい)(さい)(こう)()(てん)ずるためのマストな仕法(ツール)だ。  私は毎日、昼に夕に夜にと時間を見計らい、お客さんごとにアプリを使い分けて、ご来店を促している。 『お疲れさまです。()()()です☆ うっかり昼過ぎまで寝ちゃったんだけど、そうしたらとても良い夢を見たの。〇〇さんと食事に行って、おなかいっぱい食べる夢。美味しいものは正義だよね。そう言えば〇〇さんは、前に○○が好きだって言ってたっけ。ちょっと飲みながら、夢の続きを話したいな。良ければ今夜、会いに来てくれませんか?』  今朝考えたこの文章をベースにして使い回す。特に〇〇さんや食べ物のところを間違えないように、慎重に文章を作るのだ。間違えたら大変だからと、名前を書き込まない子も多いけど、そんなものはただの怠慢だと思う。一回で何万円も使ってくれる人の名前を間違うぐらいなら、そもそもキャバクラで働く素質がないってこと。私は自分を指名してくれるお客さんの名前を絶対に間違えない。キャバ嬢の仕事は自分の天職だと思っているからね。  私の源氏名は、本名をもじってエリーにしている。親しくなった人だけに本名を明かすというのは方便で、三回指名してくれたら教えてあげることにしている。マイ・ルールで指名の回数に応じた話をする。私の手帳には、お客さんの情報がびっしりと書き込まれ、それだけで個人の伝記が書けるぐらいの情報量を誇る。胸の中の引き出しはきれいに整頓されていて、いつどのような場面でもその情報を引き出せるから話に詰まることはない。  目指すは夢のナンバーワンだ。現状、ナンバー(スリー)が定位置みたいになっているけど、すでに上位二人は(とら)えた状態。実質、この半年、本指名の数では私がナンバーワンを続けている。でも、売上が少しだけ足りないから三位にいる感じ。バースデー月である二月には確実にトップを()れる。すべてはお客さんやスタッフ、他のキャストのおかげだ。だからこそ、早くナンバーワンを定位置にして、みんなに恩返しをしたい。  先ほどの文章に、お客さん一人ひとりに合わせたメッセージを追加していく。たとえばゴルフの話題。たとえば映画の話題。場合によってはアニメやフィギュアの話題。どんな話でも私はついていくよ。日々の睡眠時間を限界まで削って、雑学知識を蓄えている。だけど知ったかぶりはしない。キャバ嬢は明るく盛り上げて夢を提供するお仕事だ。そこそこ無知であるように振る舞うことも必要だから、どんなに知識があっても初めて聞く興味深い話みたいに相槌を打つ。キャバ嬢とは、一流の女優でなければならないのだ。
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