女王の戴冠

1/10
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 数十人からなる楽団による、荘厳な音楽が鳴り響く中、私は赤い絨毯の上を歩く。  右手には王家に代々伝わる錫杖を。左手には聖酒を受ける為の聖杯を。  王家の紋章である不死鳥の像が翼を広げる祭壇の前で待つ祭司のもとでひざまずき、さらりと長い金髪を流して、こうべを垂れる。 「フェルリスティアラ・ノート・ハイベルグスト」  祭司が厳かに私の名を呼び、低く問いかける。 「汝、ハイベルグストの国王として、その身を国と民に捧げ、その精神を(まつりごと)に砕き、その生涯をハイベルグストの繁栄に懸けると誓うか」  誓いたくなど、ない。  そうは言えなくて、私は引き結んだ唇を一瞬噛み締め、しかし、心とは裏腹に、ゆっくりと口を開く。 「はい、誓います」  祭司が鷹揚にうなずき、私の頭に王冠を載せ、聖酒を聖杯に注ぐ。  ずしり、と。歴代の王の責務を重ねたかのような重さがのしかかる。それに耐えて顔を上げ、聖杯をあおいで、熱い感覚が喉を通り過ぎるのを味わう。  聖杯を()して立ち上がり、身を包むマントを翻しながら向き直る。それを待っていたかのように、絨毯の両脇に居並ぶ騎士達が一斉に抜剣して、鋭い銀の輝きを青眼に構えた。  その中の一人に、私の目は吸い寄せられる。緊張に満ちた青い瞳で、私の視線に気づかないふりをして、まっすぐに前を見据える青年。  ヘリオス。ヘリオス・ケイン。  今日今この時から、女王になった私の掌より永遠に零れ落ちていった、大事な宝石。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!