女王の戴冠

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 回想の輪から現実に戻ってきた私は、そっと視線を切って、まっすぐ前を向く。  ヘリオス。私の青い宝石。  そうしてあなたは私からの想いを胸に仕舞い込んで、何も思っていないような態度で、女王の私に尽くすのでしょう。  ならば私も、あなたからの想いを、誰にも触れられない場所に仕舞い込んで、ハイベルグストの為に生き続けましょう。  今日から私は、誰かの子の母になるのではなく、国の母になるのだから。  その決意を抱いて、私は赤い絨毯を歩んでゆく。女王として、民の前に顔見せする為に。  ヘリオスの前を通った時、一瞬、果てしない熱を注がれたように感じたけれど、私はもう、気づかない振りをした。  私の頭に乗っているのはもう、シロツメクサの花冠ではなくて、責任ある王冠なのだから。
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