樹専務

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 部屋に入ると、正面の如何にも重役用といったデスクがあり、椅子に座っている男性がいた。  どちらかというと会長である石川辰夫に似た感じのスリムな体型をした40歳前後の男性を、社内報で見たことがあるな、と祐一は思い出した。  確か独身で社内の女性人気ナンバーワンで玉の輿狙いのハンター女子社員に、毎日狙われてるだった。  と、仕事にはあまり関係なさそうな情報を思い出した。  ――コロッと忘れてた・・・確か名前は石川(いつき)だったような・・・ 「やあ、はじめまして」 「今日から専属秘書として配属になりました神谷祐一です。宜しくお願いします」  そう言って頭を下げる祐一。 「あ、西条さん彼のこと借りて良いかな?」 「良いですよ。昼休み前には1度開放してあげて下さい」  そう言いながら笑顔で去っていく西条女子。 「さてと、今後とも宜しくね。もうちょっとしたら僕の甥になるんだよね、祐一君」  パタンと閉じたドアを確認しながら、辰夫によく似た細面のイケメンがこちらに向かって微笑む。 「はい、それも宜しくお願いします」 「うん、多分だけど君じゃ無いとあの一家の面倒みきれないと思うから、頑張ってね」  そう言いながら、デスクに頬杖をつく。 「・・・そうですか」  頬杖をついたままの樹はニンマリ笑う。 「突然君が移動になった理由なんだけど」 「はい」 「兄の話を聞く限り、君の能力が突出しているみたいでさ、経理課全体が君に甘える状態になりつつあるんだよ。で会社としてはコレは不味いだろうって事になって、兄が君を移動させることにしたんだ」  あ、やっぱり。
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