ノンフレームの眼鏡

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ノンフレームの眼鏡

 部署移動の当日こそ、帰りが遅くなった祐一だったが、翌日からは定時に帰ることが出来るという奇跡のような事が起こっていて、毎日麗奈と歩きで仲良く帰るという至福を満喫している。  最初は、定時上がりとか何かの冗談だろう? と思った祐一だったが、同僚の篠崎も上司の西条も定時にアッサリ帰っていくので、それまで経理課で何をやっていたのかと首を傾げるアラサー男である。  もっとも仕事中は3人とも必要最低限しか口を利かないし、常にインカムが片耳に装着され、スマホでスケジュール管理をしながら合間にメールチェックして、郵便物も受付で受け取りロビーから歩きながら読んでエレベーターの中で仕分けをして、秘書室に着いた途端に処分してPC処理をするいうハードスケジュールだが・・・  そして祐一だけは会長が来ると、 『お前の仕事はバリスタか?』  と聞きたくなるくらい珈琲を入れまくるというおまけ付きだ。  会長のお客様は、仕事の取引だけでは無く、ボランティア活動や異業種交流もあるため、会話のきっかけとして飲み物等はいいネタになるらしく、祐一を秘書に欲しがっていたのも今となったら頷ける話である。  祐一的に問題があるとすれば、イシカワ・コーポレーションの受付や秘書は美形揃いという噂があるらしく、祐一はいつもの黒縁眼鏡を西条に禁止されてしまったのが大誤算だった。  代わりにとノンフレームの眼鏡を西条に渡されたのだが、ノンフレームでは顔が丸わかりだと反論した。 「大丈夫! このフロア以外は前のを掛けりゃ良いから!」  と、圧のある笑顔で押し切られてしまった。  まあ、それならと受け入れてしまった祐一もいけなかったのかもしれないが、今目の前で大問題が発生し背中に冷や汗をかいている所だ。
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