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第一話 新生活①
一身上の都合により、退職した僕は生まれ故郷である『辰子島』に帰ってきた。家の事情もあり神社本庁の推薦状で、僕は通信教育で入学することになったのだ。
ばぁちゃんは、ようやく家を継ぐ決心がついたかと喜んでいたが、正直なにかと心霊現象に巻き込まれてその度に会社に、有給届けを出すのが面倒だったてのがある。
雨宮神社は、正月やお祭りの時に本土からも観光客が来るほか、巷でパワースポットとか言われているらしく、それなりに忙しい。
生活には困らないが、勉強しつつ生活費くらいは実家に入れようと僕はバイトする事にした。
『神職の勉強に専念するほうが、龍神様も安心するよ! あんたはすぐに仕事疲れたー言うて勉強しないでしょーが』
「うっ、まぁ……高校の時はそうだったけどさ、ばぁちゃん。僕も社会人を経験してそれなりに成長したんだから。ある意味、神社以外のところで働くって息抜きになるし」
とはいえ、僕は試験勉強を怠けて梨子に教えてもらったという前科があるので、ばぁちゃんの心配はもっともだ。
そう言えば、梨子は卒論のテーマに辰子島と雨宮神社を選んだらしく、帰郷するって言ってたっけ。そのあいだ、神社でバイトも手伝ってくれるというありがたい申し出もしてくれて大助かりだ。
梨子と久しぶりに会える嬉しさと、あの死ぬほど可愛い巫女姿を見れるかと思うと、ニヤついてしまう。
『梨子ちゃんが、帰ってくるんだったら一緒に神社でバイトすればいいでしょうに。ほんとあんたはこう……、恋愛オンチって言うかねぇ。誰に似たのか』
ばぁちゃんが、呆れたように話しかけてきた。恋愛オンチと言われても、正直言い返せないのが腹立たしい。
もう少し早く知ってたらバイトの面接受けてなかったんだけどさ……。
島の移動は原則車か自転車になるが、バイト先までは自転車で行くことにした。
「だって、バイトの面接受かってから、連絡きたんだから仕方ないだろ。そりゃ僕だって梨子と一緒に働きたいし……、将来的にもそのつもりだけど」
『――――それにねぇ、働くならなんで『萬屋マーケット』の方にしておかないんだい』
萬屋マーケットは、いわゆる地元のローカルなコンビニと言うか、コンビニを名乗っているものの個人商店のようなところだ。
僕が物心ついた時からあって、オーナー夫妻の事も知ってる。
バイトの募集があれば、そこで働かせて貰う事も考えたけど、家族でやっているような店だし、一度、島の外に出た僕がお願いしに行くのは気が引けた。
そこで、僕は最近オープンしたという、本土ではそこそこ知名度のある『わくわくまーと』のバイト募集の広告に目を付けたのだ。
「どうせなら、東京にあったチェーン店の方がいいよ。都会の生活を思い出せるし、昼勤のシフトにして貰ったから、たぶん安全」
『――――どうだかね』
信号が切り替わり、僕はバス停の手前で直角に曲がってそちらの方を見ないようにするとコンビニの前で自転車を止めた。
あのバス停の背後には、子供の頃ばぁちゃんとバスを待っていた時に遭遇した、半ば魔物と化した『釣り人』の悪霊がいる。
大人になっても消える様子は無く、僕はなるべく、そのバス停を利用しないようにしていた。
あの時とは違い、僕はもう所構わず霊視してしまう能力を遮断するスイッチの切り替えは出来ているけど、いわゆる悪霊化して魔物になった霊の中には、そのバリケードを突破して存在をアピールしてくる者もいた。
だから、ばぁちゃんは僕を心配してあそこを通るのはいい顔はしないし、僕も全く見えないふりをして悟られないようにする。
――依頼された心霊事件に関係のない霊とは、関わるな。
それがばぁちゃんが口酸っぱく言っている事だ。僕も、よほどせっぱつまって頼られない限り、霊の世界に足を突っ込みたく無い。
ごくごく普通の二十代でいたいからだ。
ボディバッグを背負った僕の後を、ふわふわと守護霊のばぁちゃんがついてくる。
店に入ると、わくわくまーとの聞き慣れた入店音がし、カウンターには店長と僕より一回り年上の男性店員がいてこちらを見た。
「いらっしゃ……あぁ、雨宮くん! 今日からだったね、よろしく頼むよ」
「おはようございます、店長」
店長もその男性店員も、この島では見かけた事のない顔だ。
店長は確か、もともと本土で直営店の店長をしていたようで、本社が離島にも店をオープンさせるにあたり、こちらに派遣されてきたようだった。
オープンスタッフは10人くらいだと聞いていたけど、田舎ならそれでも回るのかな。
いや、もしかすると、多すぎるくらいかも知れないけど。
「横林くん、彼が雨宮くんだ。彼はフリーターでこの業界はけっこう長いから、一通り教えて貰ってくれるかな。僕は夜勤なんでね」
「ああ、神崎の……。昼間はそこそこ忙しいけど都会のコンビニほどじゃないから、よろしく」
夜勤といっても、確かここは夜中の25時には閉店すると聞いている。横林さんはいかにもフリーターというような風貌で、必要以上の事はあまり話したく無いと言うオーラを感じた。
神崎、と言うのは辞めたバイトの人だろうか。
そう言えば、急遽欠員が出てしまって、面接もそこそこに、僕がいつから出勤できるか質問されたことを思い出した。
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