469人が本棚に入れています
本棚に追加
FIGHT!!
小学校にあがる頃、ひとりっ子で母子家庭だった桃緯に新しい苗字と新しい兄ができた。
ずっと兄弟がほしいと思っていた桃緯にとって、願ってもないことだった──のだが。
「だって、同い年の兄貴ができるなんて聞いてなかったんだもん!」
真実を知ったのは、両家顔合わせの時だった。
さらさらした黒髪に、瑞々しい肌、一瞬にして目を奪われるほど整った左右対称の美しい顔。
たった十一ヵ月早く生まれてきただけだというのに、兄となる少年は、初対面から妙に落ち着きと品のある子どもだった。
たとえ同い年でも、三月生まれの桃緯より早く生まれているのだから、書類上、一応兄であることは間違いない。
だが、当時の桃緯にとって「兄」といえば絶対に年上なのだ。幼い頃によくある変な先入観から、頑なにそこは譲れないものだった。
否、もしかすると既にそこへ別の感情も芽生えていたのかもしれないのだが。
母に「でもね」と一生懸命なだめられている桃緯をよそに、優雅にテーブルマナーを守りフレンチを食してる桜雅を目にし、とにかく鼻持ちならなかったのを十二年経った今でも覚えている。
フォークとナイフがなんだ。日本人なんだから箸を使えよ。なんて、思いつくまま心の中で子どもじみた悪態をついていたのも、今となっては懐かしい。
だって、あの頃の桃緯は家計が苦しい母子家庭で育ち、ファミレスでの外食でさえしたことがなかったからだ。
フレンチなんてとんでもない。
帰り際、「美人でお若いお義母さんとかわいい義弟ができて、とても嬉しいです。これからどうぞよろしくお願いします」なんて、新しい兄は美辞麗句のお世辞を笑顔でさらりと並べていた。母はまんざらでもなさそうに笑顔を浮かべ、新しい子どもをすぐさま手放しで大歓迎していたが、桃緯は違う。
子どもながらに、コイツは絶対裏がある。
敵だ。
義「兄」だなんて絶対に認めない。
と、怒りの誓いを立て脳内に闘いのゴングが鳴ったことを今でも覚えている。
時は過ぎ、十二年後。高校生になった桃緯は義「兄」に対して、当時のネガティブな思いのままだったら、どんなに楽だっただろうか。
何度もそう後悔する日が来ようとは、この時の桃緯にはまだ、知る由もなかったのである。
最初のコメントを投稿しよう!