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四人掛けのダイニングテーブルの定位置に、桃緯がそれぞれの茶碗を並べたところで、遠く玄関のドアの開く音が聴こえた。
だいたいいつも、桜雅がバイトから帰ってくる時間だ。
母の作った洋風ハンバーグとポテトサラダ、昨日の残り物のひじきの煮物に、若芽と豆腐の味噌汁とデザートの文旦を食卓に並び終えた頃、桜雅がリビングへ入ってきた。
今にもドアの上枠に頭がぶつかりそうだ。また少し、身長が伸びたのではないだろうか。
学校で桜雅と一緒にいると、周りからちびっ子と揶揄されるが、桃緯の背丈はこれでも百七十ある。
決して自分が小さい方だとは思っていないが、桜雅と話す時はやはり視線がだいぶ上だ。
「あら、お義兄ちゃんお帰りなさい」
「ただいま。いいにおいだね」
制服姿で帰宅した桜雅は見馴れた紫のブレザーを脱ぎ、丁寧に二つ折りにしたものを椅子の背もたれにかけ、桃緯の隣りへ座った。
こういう仕草、ひとつをとってみても相変わらず桜雅は几帳面な性格だなあと桃緯は思う。
同時に、程よく筋肉のついた姿勢のよいその姿に、自分とは違うもともとの育ちのよさを垣間みる。
痩せ型で、どこにでもいる平凡な顔を持った桃緯からしたら、羨ましいしかない。
「今日も義母さんのご飯、おいしそうだ。いただきます」
紫色のネクタイを角張った大きな右手で軽く緩めると、家族しかいないにもかかわらず、とびきりの笑みをみせた。
本当に全方位抜け目のない義兄だ。
「どうぞ、たくさん召し上がれ。おかわりあるわよ」
家族になってから、数えきれないほど繰り返されたやり取りにもかかわらず、やはり今日も褒められた母は嬉しそうである。
なんだか桃緯は、むうっとした。
「嬉しいな。義母さんのハンバーグ、大好きなんだよね」
心底美味しそうに、かつ上品にハンバーグをフォークとナイフを使って食べる桜雅に、桃緯は無意識に眉をしかめてしまう。
葛藤やイライラなどとは、まるで縁遠そうだ。
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