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「ね、桃緯も義母さんのハンバーグ好きでしょ?」
悔しいが、笑顔の桜雅は特にかっこいい。イケメンぶりが増して、桜雅への苛立ちも忘れてしまいそうになってしまう。
バイト先である有名チェーン店のカフェでも、桜雅目当ての女性客がかなり多いことは、同じクラスの女子から訊いて知っている。
イケメンのクセに鼻にかけることもなく、誰にでも公平に接していることもまた、ファンが多い理由らしい。
義弟である桃緯からしてみても、欠点がなにひとつ見当たらないうえ、このフェイスだから、当然人気があるのも不承不承納得してしまう。
イケメンは役得である。
「ねえ、桃緯? 訊いてる?」
むっとして返事が遅れた桃緯を、桜雅がじっと心配そうに覗き込んだ。
見馴れたとはいえ、至近距離にイケメンが近づいてくるといまだにドキッとする。
乱れた心を見透かされたくなくて、桃緯はしかめていた眉間に、さらに力を込めた。
「ねえ、桃緯?」
二度目に桃緯の名を呼んだ声は、心なしか甘い。
ドキッ、が、ドキドキになる。
この頃、桜雅に至近距離で話しかけられると桃緯の心は、本当におかしいのだ。
「……もう、桃緯。さっきからお義兄ちゃんが訊いてるでしょ? お母さんの料理が美味しくないっていうのはわかっているけれど、お義兄ちゃんの質問は無視しなくていいんじゃない?」
相向かいに座る母が、ため息まじりに言った。大切な母を困らせたかったわけじゃない。母の作る料理はずっと好きだ。でも、結果的に誤解させてしまったことに、桃緯は小さく舌打ちをする。
「うまい! 母さんのハンバーグはうまいよ! 美味しいし、好き!」
片言のように返すと、桃緯は誰にも何も言わせないオーラを放ち、一気にごはんをかきこむ。食べ終わったところでシンクに自身の食べた食器を片付けると、脱兎の如く、自室のある二階へと逃げ込んだ。
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