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絡みつく大きな両腕に、そっと桃緯はそれぞれ手を重ねた。
「もう一生、俺は桃緯の敵にはならないよ。むしろ誰よりもかっこいい桜雅、俺もみたい」
うん、と桜雅が深く頷く。
「だったら俺、龍ヶ崎翔琉より、否、四年かけていい男になって、桃緯の自慢の恋人になるから」
今度は桃緯が「うん」と頷く番だった。
「俺も。俺も、桜雅が自慢できるような男になれるように、頑張るから」
気がつけば、駅は目前だ。
大型連休最終日、終電少し前の駅構内は、下り列車さえ到着しなければ人はほぼいない。
改札前でほんの少し、触れる程度の接吻を交わし、そうして二人はそれぞれの道を歩き出す。
帰り道、見上げた月夜が明るくて、桃緯はめずらしくそっと神頼みをしてしまった。
大丈夫。
俺たちはきっと大丈夫。
桜雅も同じように、そう願ってたらいいな。
そう思いながら、桃緯は初夏の夜の空気を全身で受け止めながら歩いていた。
*****
「──ええ? じゃあ、もう桃緯はこの後すぐ東京に行っちゃうのかよ?」
就職活動や院への進学が、五人全員無事に決まり、久しぶりに再会したのは大学の卒業式だった。
金髪の男は爽やかな黒髪ショートの青年となり大学院へ進。入学当初はまだ幼さが残っていたツーブロックの男は精悍な顔立ちの好青年へと成長し、このまま大学近くの中小企業で働くことに。
アイドル好きな小柄の女は……アイドルはいまだに好きらしいが、一年前に地元で彼氏ができ、卒業後は地元で就職するらしい。
また、ぶりっ子口調だった葵衣はすっかり大人びた喋り方をするようになり、都内の大手出版社に内定が決まったそうだ。
そう、桃緯と同じ、都内就職組なのだ。
「うん、まあ」
一時間後にある、大学主催の二次会という名のパーティーに参は加せず、桃緯はこのまま都内へ上京する予定である。
「そりゃ、仕方ないよ。昨日まで、卒業旅行で私たちが久我原くんを独占しちゃったから、独占欲強めの恋人様がこれ以上は赦してくれないんだよ」
呆れた口調で、だがみんなを説得してくれたのは、四年前では考えられない葵衣だった。
「そっか、仕方ないよな。朝、昼、晩とこまめにテレビ電話してくるような恋人だもんな」
元ツーブロックの男がため息混じりに言った。
四年前のゴールデンウィーク時、突然現れた桜雅に、この五人には恋人同士であることを気づかれたのはないか。
そう覚悟していたが、案外、葵衣以外には気がつかれることなく、今日まで静かに遠距離恋愛を楽しむことができていた。
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