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三LDKになっている二階へ続く階段を駆け上がり、一番奥にみえる左のドアを勢いよく開けた。そこが桃緯の部屋だ。
高校三年間帰宅部だった桃緯は、たったこれだけの距離を全速力で上がってきただけで、はあはあと肩で息してしまう。
「情けねえなあ……」
シングルベッドに力なく飛び込むと、桃緯はそのままひんやりとした布団へ全身を預けた。
なんで桜雅は大学進学のこと、何も言わなかったんだよ。
息を整えながら、桃緯はドキドキしたことには蓋をし、先ほどのやり取りを逡巡した。
俺と一緒の大学じゃ、嫌だったのかよ。
否、違うか。
今まで、桜雅がずっと俺に合わせてくれてたのか。
右手で拳を握り、顔を伏せたまま頭上にあるだろう枕をめがけて、力任せに一発殴る。
そうだ。
桜雅が優秀だったのは、出逢った時からだった。
それを、敵意むき出しの俺と仲良くなるために、わざわざ私立受験までして入学したエスカレータ式の小学校から桃緯が通う公立へと転校して来てくれたんだっけ。
果たして、俺が逆の立場だったらできただろうか。
将来を約束された居場所を捨て、懐かない義弟のために──。
「いいかげん、桜雅だって自分の将来のことを考えるよなあ……」
自己嫌悪に陥る。だから、桜雅への見方が少しずつ変わってったんだよなあと、共に歩んだ十二年間を回顧する。
でもさ、ひとことくらい言ってくれたっていいじゃないか。と、桃緯は独りごちる。
一応、義弟なんだからさ、と。
一方的に責めたところで、結局は自分の力不足のせいかと肩を落とす。
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