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ほどなくして、力強い足音が階段を上がってくる音がした。足音だけで桃緯には誰なのかが、わかってしまう。
すたすたと二階の廊下を歩く音がして、不意に桃緯の部屋の前で止まった。向かいにある自分の部屋に、きっと桜雅が戻ったのだ。
ふつふつとまた、桃緯の怒りがこみ上げてくる。
とばっちりであることは重々承知で、人の気もしらずに、と心の中で悪態をつく。
次の瞬間、背後で桃緯の部屋のドアが勢いよく開く気配がした。
驚いた桃緯は、背後に立つ相手に気がつかれないようちらりと視線だけ盗み見る。いつになく険しい顔の桜雅が仁王立ちしていた。
「桃緯、今日どうしたの?」
どうしたのは、こっちのセリフだ。
どうしてそんなにも不機嫌なんだと言いたい。
不機嫌そうに訊ねた桜雅は桃緯のいるベッドまで歩み寄ると、すかさず隣りへ腰かけた。
距離が近すぎて心臓に悪い。
慌てて桃緯は視線を布団へと戻した。
「ねぇ?」
わざとなのか。桜雅は、桃緯の耳朶に吐息がかかる距離まで詰めると、美声で迫るように囁いた。
ドキドキどころか、心臓が身体から突き破りそうなくらい鼓動が飛び跳ねる。ショック死しそうだ。
「ねえ、桃緯? どうして機嫌悪かったの? 嫌なこともでもあった?」
桜雅が喋るたび、ぞくぞくと桃緯の身体は粟立つ。
過度な桜雅からのスキンシップは、毎度本当に心臓に悪い。また不自然に反応してしまう自分にも、いつもイライラしてしまう。
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