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――『助けてくれなんて言ってない』。
「今朝だってさ〜。龍樹、ちょっとでもケンカの匂いがするとすぐ飛び出して行っちゃうんだから。俺がカバン持って来てやったんだからね」
「……ワリィ」
「まあ龍樹はカバンなんて気にしてないかもだけど」
「だってあいつら、こないだガツンとかましてやったばっかなのに! またうちのシマで暴れてやがって……」
ナルコーにはライバルに当たる高校が近くにある。波松高校――偏差値はどちらも底辺を争うが、ケンカの強さではお互い名を轟かせている。顔を合わせれば小競り合いを繰り返す仲だ。
「龍樹もいちおう、ナルコー二年のアタマなんだからさあ。どんと構えてないとさ」
「ん……」
照れくさくなって鼻の頭を指で掻く。アタマと言ってもこの春、二年生になってそう呼ばれるようになったばかりだ。それで余計に名を上げようと躍起になっているのかもしれない。
「あれ、もう黒くなってきたね」
あぐらをかいた龍樹の頭頂部を覗きこみながら直人が言った。
「ん……そうか?」
つられるように頭に手をやる。
「カッコつけるのもお金かかるね〜。ま、似合ってるけどその色」
「ん……まあな」
似合ってると言われて悪い気はしない。
「ゴールデンレトリバーだけど」
またそれを言う。この色に染めてからこっち、ことあるごとに直人がからかってくるのが気に食わない。だが言われると逆に意地になってしまい、結果色を変えることもなく染め続けている。
「ついでに紫ちゃんに、アタマのなんたるかをご指導いただいたら」
「やかましーわ!」
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