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「らっしゃーい」  くわえタバコで新聞を広げ、面倒くさそうに顔を上げた店主に片手を上げる。 「ちわっす」 「おー龍樹(たつき)。なに。もう染めんの」 「ん……なんか、言われたら気になって」  頭のてっぺんを指で弄りながら言うと、 「直人か」  にんまり片頬だけ上げて、『シキブ理髪店』の店主――式部(しきぶ)(ゆかり)は手前の椅子をくるりと回した。 「んで? どうする。いつものカンジでいいのか」  鏡の前に座った龍樹の髪をくしゃくしゃ混ぜながら、式部が尋ねてくる。  龍樹は「ん」と頷きながら、近くのワゴンに乗った灰皿を店主に突きつけた。以前、灰が首元に落ちてきてえらい目にあったのだ。「ワリィワリィ」とくわえていた煙草を灰皿に押し付ける式部を、ジロッと睨みつける。 「マジ気をつけてくれよ。てゆーか禁煙すればいいのに」 「……お前、ヤンキーのくせに意外と真面目な」 「そういうんじゃねえし。ただこの臭い苦手なんだよ」 「へえーい。気をつけまっすお客サマ」  式部はペロリと舌を出した。  
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