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2.
「らっしゃーい」
くわえタバコで新聞を広げ、面倒くさそうに顔を上げた店主に片手を上げる。
「ちわっす」
「おー龍樹。なに。もう染めんの」
「ん……なんか、言われたら気になって」
頭のてっぺんを指で弄りながら言うと、
「直人か」
にんまり片頬だけ上げて、『シキブ理髪店』の店主――式部紫は手前の椅子をくるりと回した。
「んで? どうする。いつものカンジでいいのか」
鏡の前に座った龍樹の髪をくしゃくしゃ混ぜながら、式部が尋ねてくる。
龍樹は「ん」と頷きながら、近くのワゴンに乗った灰皿を店主に突きつけた。以前、灰が首元に落ちてきてえらい目にあったのだ。「ワリィワリィ」とくわえていた煙草を灰皿に押し付ける式部を、ジロッと睨みつける。
「マジ気をつけてくれよ。てゆーか禁煙すればいいのに」
「……お前、ヤンキーのくせに意外と真面目な」
「そういうんじゃねえし。ただこの臭い苦手なんだよ」
「へえーい。気をつけまっすお客サマ」
式部はペロリと舌を出した。
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