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「しっかしお前、ほんとケンカの才能だけはあるよなあ」  手元のスマホから顔を上げて、鏡越しにハサミを駆使する式部を見やる。 「だけってなんだよ」 「別に? 褒めてんだよ。だから珍しいなって、ケガしてんの」 「ああ……」  あいつを庇ったときだな。  思い出したらまたムカムカしてきた。  正面から相手の拳を受け、腕でガードしたのだがそこが痣になってしまっている。式部がけっこう腫れてんな、と無遠慮に触ってきたので思わず眉をしかめる。 「ま、これでも貼っとけ」  と、湿布を渡される。用意がいい。龍樹の思考を読んだかのように、式部が説明する。 「俺もお前くらいの年頃は、ケンカ三昧だったからな」  つい十年ほど前は泣く子も黙る暴走族のヘッドだったんだよなあ。  長身だが、ほっそりした体躯。やや面長の鼻筋の通った、どちらかというと柔らかい印象の顔立ち。これで大勢の仲間を従えて大きなバイクを走らせてたのかと思うとぱっと見では想像がつかない。  ふと視線を上げて、壁に飾られた古びた写真を眺める。幼い自分と直人、そして学ラン姿の式部。その後ろには笑顔満開の三人の老人。  この店は亡き祖父の馴染みの店だ。直人の祖父と、式部の祖父とは友人同士で、小さい頃からしょっちゅうここに来て遊んでいた。  遊ぶと言っても式部は十近くも年上なので、『遊んでもらっていた』が正しい。 「覚えてっか? 今日、うちのジジイの誕生日なんだわ」  龍樹の視線を追って、式部が懐かしむように口を開く。 「ああ……覚えてる」 「今頃、三人仲良く、お空の上で酒盛りでもやってるかもな」  そう言う式部の目が細くなる。 「……だな」  龍樹の知る限り、式部は祖父とずっとここで二人暮らしだった。両親の話は聞いたことがない。 『ひとにはいろいろあるんだから、詮索しちゃダメよ』  かつて子供心に不思議に思って式部に尋ねたことがあったが、笑ってごまかされてしまった。そばで聞いていた母親に後でめっ、と注意された。センサクってなに、と返すと、横にいた直人が説明してくれた。  
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