2.

3/4
前へ
/61ページ
次へ
   そういやさ、という式部の声で我に返る。 「昔さー、俺の特攻服見せたときさ、直人はカッケーっつって目ぇキラキラさせてんのに、お前ときたら」 「……なんだよ」 「怖いってギャン泣き。あれは傷ついたな〜」 「……っ、そんなん、ガキの頃の話だろっ」  悔しまぎれの咆哮は軽やかに無視されて、式部は腰まである真っ直ぐな黒髪を後ろで一つに束ね、鼻歌を歌いながらカラーリング剤を混ぜはじめた。  名前が式部(しきぶ)(ゆかり)なので、見た目も相まって『(ひかる)の君』と言われていたらしい。……と、直人から聞いたが、その名前とあだ名の繋がりが龍樹には分からない。 「お前が手こずるなんて、そんな厄介な相手だったのか」  と、腕に貼った湿布を横目に、式部は耳にカバーを取り付けていく。 「ちっげえよ。人数多かったんだよっ」 「へーえ」  ニヤニヤしながら櫛で龍樹の髪を梳かす。龍樹はふてくされて、クロスの中で腕を組んだ。 「直人はいても戦力にならないだろうからなあ」 「いーんだよ、あいつはそれで。うちのガッコの希望の星なんだから」  直人はおちゃらけているように見えるが、頭は悪くない。病院の跡取り息子で、本当はもっと学力の高い高校へ行けたはずだが、 『龍樹とバカやれるのも今のうちだしな』 と、龍樹の行ける今の高校を選んだ。  そんなことで進路を決めるなんてアホだなと思う。だがその言葉を聴いたとき嬉しくて、口元が緩んでしまうのを必死で抑えた。すぐに直人に指摘されてしまったけど。 「波松高のやつらさ……最近ヘンなんだ」 「ヘン?」 「前はうちのシマでやたら暴れるなんてなかったのに。しかも今日は二葉(ふたば)高のやつを襲ってた」 「へえ。あのインテリ高の?」  思えば最初から違和感はあった。いつもの小競り合いかと人波に飛び込んだら、二葉の学ラン一人にあんな大勢で――カツアゲするにしても、あんなに殺気を(みなぎ)らせてるのはおかしい。  結果、その学ランを助ける形になったのだが。 「でもさ〜、あの野郎……」 『助けてくれなんて言ってない』  
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!

153人が本棚に入れています
本棚に追加