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––––それが、昨日の出来事だ。
あの地面の下に、“何か”埋められているのかもしれない……。
家に帰ってしばらく落ち着いてくると、地面の下が気になって仕方なかった。
妙な好奇心に突き動かされた界斗は、次の日にシャベルを持って家を出た。
そして廃神社に続く道に足を踏み入れようとしたところで、自転車に乗った心矢に見つかってしまった。
ついて来るな、と界斗が言っても、自転車から降りた心矢は嫌がらせのようについて来た。界斗は早々に諦めて、心矢を穴掘りに付き合わせることにした。
「よし。掘るぞ」
界斗はその場にしゃがみ込むと、シャベルの先を地面に突き刺した。
界斗が穴を掘る姿を、心矢は愉快な顔で見下ろしている。紅い色の瞳に界斗を映し、心矢は言う。
「なぁカイ。てめえは犬がここ掘れワンワンした地面に金でも埋まってると思ってんのか?いや、思ったんだよな。だから必死こいて穴を掘ってんだよな。ははははっ、やべぇチョー面白えじゃん」
界斗は一度手を止めてから、ニヤついた顔の心矢を睨み上げた。
「うるさいぞ、シン。ここまでついて来たなら無駄口叩かずさっさと手伝え」
「へーへー。んじゃあ、俺の分のソレ寄越せよ」
「お前の分はない。手で掘れ」
心矢はやれやれと肩をすくめ、ようやくしゃがみ込んで手を動かし始めた。
二人が黙々と穴を掘り始めて数十分が経過した。
界斗がシャベルを深々と突き刺したその時、ごつ、と先が何か硬い物に当たった。そこを目指して土を掘り進めると、平たい木の板が現れた。
手を止めた界斗は、無言で心矢と目を合わせる。心矢はニヤリとした。
二人は木の板の周りを掘った。掘り進めると、木箱が姿を表した。
目測で長さ約100cm、幅約50cmといったところだ。
シャベルの先がぶつかったのは、木箱の蓋の表面だった。
蓋の表面の土を手のひらで払った界斗は、戸惑いを顔に浮かべる。本能的な嫌な予感がした。
「……これは、なんだろうな。タイムカプセルか?」
界斗の呟きを聞いた心矢は、くくっと面白そうに笑う。
「誰かの棺だったりしてなぁ」
「こんなところを墓場にしていたとは思えない。……まさか、誰かがここに遺棄した、とか…」
「おっ、そりゃ面白えな。タイムカプセルより死体の方がわくわくするぜ。いいねぇ、テンション上がってきた!」
隣で過度にテンションを上げていく心矢を心底うざいと思いながら、界斗は現在の状況をどうするべきか考えた。
選択肢は、二つ。
蓋を開けずに埋め直し、無かったことにする。
蓋を開けて中を確認する。だがそれをして万が一死体が入っていたらどうする?警察沙汰はごめんだ。
–––タスケテ……クレ……
「––––……?」
空気を震わせ、ソレは聞こえた。
低く嗄れた“男”の声だった。
「……シン、聞こえたか?」
「あぁ、聞こえた聞こえた。声だな。タスケテー、だってよ」
–––ココカラ、出シテクレ…
「出シテクレー、だってよ」
「どこから聞こえるんだ」
「こっからじゃね」
心矢が木箱を指差した。
界斗も、木箱から声が聞こえていることに気づいていた。
この瞬間に選択肢は決まった。蓋を開けずに埋め直し、無かったことにする、だ。
「おいおいおいおい」
シャベルを手にして木箱に土をかけ始めた界斗の手首を、心矢が掴んだ。
「なぁにやってんだよ。せっかく掘ったっつーのに」
「埋め直すんだ」
「ハア?おいおい、今さらビビんなよ」
「これは……駄目だ。開けたら駄目だ」
「俺をてめぇの好奇心に付き合わせた時間を無駄にしろってか。ふざけんな」
「お前が勝手について来たんだろ」
そう言って睨んできた界斗の胸元を、心矢は強く押した。
後ろに尻餅をついた界斗が慌てて体を起こすのと、心矢が箱の蓋を持ち上げるのはほぼ同時だった。
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