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開けてしまった木箱の中を見つめた心矢が、不意に界斗に向かって意地悪な笑みを見せる。
「死体はねぇぞ。よかったなぁ、カイ」
それを聞いた界斗は体勢を戻し、中を覗き込んだ。確かに死体はない。そのかわりに入っていたのは––––。
まず、黒色の刀袋があった。袋には膨らみがあり、中には刀……もしくは別の何かが納められていることが分かる。
次いで、B5サイズのノートが丁度収まる長方形の木箱。
そしてもう一つ、片手に乗るサイズの四角形の木箱があった。
この三つが、箱の中に入れられていた。
「箱の中に更に箱ってワケか。埋めた奴はサプライズがお好きなのかねぇ」
無駄口が多い心矢は、新しいおもちゃを見つけた子供のような表情になっている。
逆に界斗はバツの悪そうな顔になって、四角形の箱を観察した。
長方形の木箱はどこにでもある無地の箱だが、四角形の箱は違った。
濁りのある朱と黄土色で、七宝や市松模様といった和柄で装飾がされている。
「これ、ひみつ箱みたいだな」
「ひみつ箱?何だそれ」
「からくり箱、しかけ箱とも言う」
界斗は箱に触れずに側面を見た。蓋らしき箇所はない。これがひみつ箱なら、側面をスライドしていくことで仕掛けを解除し開けることができる。
……いや、そもそも、
この箱は、“無害”なモノなのか?
先ほどの不気味な声が思い起こされ、界斗は再び不気味な悪寒を感じていた。
今度こそ埋め直そう。
だが、その決断は即座に邪魔される事となる。
「こっちの中身は金か。よし、開けてみようぜ」
心矢が四角形の箱に手を伸ばす。その手首を瞬時に掴んだ。
「いや、待て。無闇に触らない方がいい」
「おいおい、まーた尻込みすんのかよ。カイよぉ、てめぇがそんなにビビリだったとは知らなかったぜ」
「お前みたいな危機感のない馬鹿が厄介事を引き起こすんだ」
「厄介事か。ハハ、ハハハハッ!最高じゃねぇか!俺は厄介事が大好きなんだぜ。知ってるだろ?」
「ああ、知っている」
やっぱり追い払うべきだったと後悔するが、もう遅い。
「へーへーへー、わかったわかった。触らなきゃいいんだろ。ほらよ、やめたぜ。これで満足か?」
心矢があっさり手を引っ込める。
界斗の気が緩んだ。その一瞬の隙を突いて、心矢は再び手を伸ばして箱を掴んだ。
「ひっかかったなぁ、カイ!」
「っ、おい!」
立ち上がった心矢はステップを踏みながら後方に下がり、箱を両手で転がしながら弄り始めた。界斗が慌てて追いかけて取り上げようとするが、上手く躱されてしまう。
「さぁて、箱の中身は何だろなぁ」
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