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カコッ
箱から軽い音が鳴った。次いで「あ、開いた」という心矢の軽い一言。
ぶわっ
「「!?」」
箱から、どす黒い煙が噴き出した。
箱を手にポカンとしている心矢と、その目の前で驚愕の表情を浮かべている界斗。
煙は一気に上空へと舞い上がった、かと思うと、いくつもの黒い玉となって四方八方に飛び散っていく。
「「…………」」
二人は言葉を失い、呆然と頭上を見上げていた。
界斗は気づく。
今この瞬間、箱の中に閉じ込めていた“何か”が、外の世界へ解放されてしまったことに……。
二人の頭上で、黒い玉が一つだけ残った。それは徐々に形を変えていく。
巨大な黒い塊から太い四肢が生えたかと思うと、そのまま一気に落下して来た。
「「……!」」
二人は同時に後方に避けた。
先ほどまで二人が立っていた地面に、巨大な黒い塊が着地する。避けていなければ潰されていた。
地面が抉れ、土煙と共に泥が飛び散る。落下の勢いで巻き起こった風により、界斗は自身の体が吹き飛ばされるのを感じた。
「ぐっ!」
短い悲鳴と共に背中から落ちて地面を転がる。
「…っ……」
ようやくうつ伏せで止まった体を、片肘をついて少しだけ起こすが、背中の痛みに加えて視界がぐらぐらしているせいで、これ以上の動きができなかった。
何が……起こったんだ…?
霞む視界の端に、黒い塊が映る。
あれはなんだ。
何を、あの箱から解き放ってしまったんだ。
視界が徐々に狭くなる–––………
「–––……」
界斗は意識を取り戻した。
あちこちが痛む体を起こして境内を見渡す。
黒い塊は消えていた。
夢だと思いたいが、地面が大きく抉れた跡が、先ほどの出来事が現実であることを思い起こさせる。
境内の中央。界斗から離れた場所に、本殿を背にして立つ心矢の姿があった。
心矢は顎を上げて、何もない宙をじっと見つめていた。その横顔は無表情だ。
体の横にぶらりと下ろしている手には日本刀が握られている。刃の表面が鈍い光を反射させていた。
「…、シン……」
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