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界斗は立ち上がり、ふらふらする足で心矢に近づく。こちらに気づいた心矢が紅い瞳を向け、いつものようにニヤリと笑った。
「よぉカイ。やっと起きたか、遅えぞ」
「……、…何が、起きたんだ……?」
心矢との距離を二メートル程空けて足を止めた。
ふらふらな界斗とは違い、心矢はけろっとしている。
「妙な化け物が襲ってきた。猿みたいな化け物だったな。んで、俺はそいつを倒す為に武器になりそうな物を探して、箱の中にあったこの刀を使うことにした。俺がやる気満々で立ち向かって行ったら、化け物は怖気付いて逃げやがった。その後にてめぇがようやくお目覚めだ。以上」
「化け物って、なん…っ…」
気絶していた間の説明を聞いた界斗は、酷い目眩に襲われてふらついた。
膝に片手をつき背中を丸めて、もう片方の手で頭を押さえ、目眩がおさまるのを待つ。
「……、…?」
数秒間の沈黙が続いた。
いつもの無駄口が聞こえないことが不思議で顔を上げると、心矢が真顔になって、もう片方の手に掴んでいた鞘をじっと見つめている。
「シン…どうした?」
「……『元宮浩二』。鞘に、死んだ親父の名前が彫ってある」
「……、は?」
どうして、と言う呟きは急に強く吹いた風に流された。
心矢は、鞘を見つめたまま動かない。
界斗は、風が流れる先を目で追った。
界斗が視線を止めた先には、御神木があった。
何かに呼ばれているような気がして、ふらふらと足を動かす。
再び御神木の前に戻って来た界斗は、箱の中を覗き込んだ。そこには長方形の箱しか残されていない。
「……?」
箱の蓋の片隅に何か文字が掘られていることに気づいた。片膝を地面について、文字の上の土を払う。
くっきりと現れた文字を見て、界斗は目を見開いた。
『元宮正一』
その名前に指先で触れ、ゆっくり撫でる。
「……父さんの、名前……」
間違いなく、亡き父親の名前だ。
界斗は導かれるように箱の蓋を開けた。箱の中には、色褪せた和綴じのノートが一冊だけ、納められていた–––……。
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