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八時二十分、教室にはまだ半分ほどの生徒しかいなかった。そんな中、私は窓際の自分の席に座り、青空を眺めていた。はるか上空を数羽の鳥達が飛んでいる。
私の頭の中は、これからの生活がどうなるのかという不安でいっぱいだった。絵美子さんとは今まで何度も会っていた。お父さんと絵美子さんと三人で、食事に行っていたのだ。二人の仲睦まじい様子を見て、きっと恋人同士なんだろうなと、他人事のように思っていたが、一緒に住むとなれば話は別だ。
「おっはよう、梨紗。どうしたの、うかない顔して」
私の真後ろの席、そこには留美の姿があった。彼女がニッと無邪気な笑みを見せる。
留美は中学校からの友人で、部活動も同じ、クラスも同じ、何の因果か席まで前後で隣になった。もはや腐れ縁と言っていいのか、運命のイタズラと言って良いのか分からないが、気のおけない友人であることは間違いない。
「おはよう、留美。まあ、色々あってね」
「なんか悩み? 私でよかったら何でも聞くよ」
「実はね。私、新しいお母さんと住むことになったの」
しばらくの沈黙の後、「まじで」と彼女が顔を歪める。
「思ったよりヘビーな内容だったね。人生の一大事じゃん」
「うん。まあ、お父さんが再婚したってだけだよ。どこにでもあるような話じゃない」
「ふうん。そっか」
チャイムの音が校内に響く。何人かの生徒が駆け込むように教室に入ってくる。
「梨沙の新しいお母さんってどんな人なの」
留美の質問に、私は頭の中で絵美子さんのことを思い浮かべる。
「えっとね、冷たい人かな。いつも無表情だし、感情もあんまり出さないし。あと、私に対していつも敬語だし」
「なるほど。とっつきにくそうだね。でも、暑苦しいよりはいいんじゃない」
「ううん。どうだろうか」
私は絵美子さんが、満面の笑みで握手を求める光景を想像する。確かにそれはそれで嫌かもしれない。
「あ、そうだ。そういえば、お父さんから遊園地のチケットをもらったの」
「えっ、本当に?」
「うん。ほら」
留美は財布からチケットを取り出した。そこには、ここから数駅の場所にある遊園地の名前が書かれていた。
留美がこういうふうにチケットを持ってくるのは初めてではなかった。彼女のお父さんは旅行会社に勤めており、遊園地のチケットや航空券を無料でもらえることがあるのだ。私も今までに何度もその恩恵にあずかっていた。
「じゃあ、ゴールデンウィークで一緒に行こうよ」
「でも、ちょうど三人分あるんだよね」
「そうなの。じゃあ里佳子も誘おっか」
「それより、梨沙とお父さんと新しいお母さんの三人で行ってきなよ」
「え、絶対に嫌だ。あの人と遊園地なんて有り得ないよ」
「ふうん。そっか。そりゃ残念ね」
その時、教室に担任の先生が入ってきた。私は慌てて前を向き、姿勢を正す。
遊園地、ね。
私は幼い頃に、お母さんとお父さんと三人で遊園地に行ったことを思い出した。園内をずっと三人で手をつないで歩き、とても楽しかったのを覚えている。
私は記憶の中のお母さんが、絵美子さんになった光景を想像しようとしたが、上手くできなかった。
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