今日から私はあなたのお母さんです。

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ある日の夕方、私と絵美子さんは、スーパーマーケットへ買い物に来ていた。絵美子さんは早足で進んでいくので、私は置いてかれないように必死でついていく。 絵美子さんが来る前、夕飯の買い物は、いつも私一人で行っていた。しかし、絵美子さんがどうしても一緒に行くと言ってきたので、今日は渋々二人で買い物をすることになったのだ。 「野菜を買う時は旬なものを選んで買うようにしなきゃいけません」 野菜売り場の前で、絵美子さんが急に話し始めた。 「旬のものは味も良いし値段も安いし、良いことばっかりなんですよ」 「ふうん」 私は適当に相槌を打つ。絵美子さんの話す内容は、私の耳をほとんど右から左に通り過ぎていった。 私は毎日、絵美子さんから小言のようなことを言われていた。勉強しなさい。姿勢を正しくしなければいけません。早く寝なければダメです。私はまるで囚人のように監視され、注意を受け続けていた。 家事は絵美子さんがほとんどしてくれるのは良いのだが、料理なんかは一緒にするようになり、包丁の使い方や味付けの仕方など、ネチネチ言われるようになっていた。そして、今日になり、買い物まで一緒に来て文句を言いにくるようになったのだ。 「あ、ちょっと待って。キャベツを選ぶ時にはポイントがあるんですよ」 私が買い物かごにキャベツを入れようとすると、絵美子さんが手で遮ってきた。 「キャベツを選ぶポイントは重さ。できる限り重いものを選ばないといけません」 私はいくつかのキャベツの重さを比べてみた。何回も比べたが、どれも同じにしか思えない。 「ううん。これかな」 私は一つのキャベツを両手で持ち上げる。 「そんなことないです。こっちの方が重いです」 そう言って、絵美子さんは違うキャベツを買い物かごに入れる。 それなら初めから自分で選びなよ。心の中だけで愚痴る。 「次はキュウリとニンジンの選び方を教えます」 絵美子さんはまた早足で進んでいく。 この後も絵美子さんの買い物講座が続くのかと思うと、気が重かった。いつも通り一人で買い物をしている方がはるかに楽しかった。 絵美子さんは、ニンジンの色とかツヤとか語り出した。きっと、この後に、お菓子がほしいって言っても買ってくれないだろうな。絵美子さんの話もろくに聞かず、私はそんなことを思っていた。
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