ある日姫は、奴隷を買った。

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「ねえ、そこの奴隷、魔法使いを呼んできてくれる?」 アシェリーは名もなき奴隷を睨みつけると、低い声で傲慢な難癖をつけた。呼ばれた奴隷は目を丸くして自分の主人である国の姫を見ている。本来であれば奴隷が姫と直接かかわることはあまりないが、この奴隷は特別に姫のそばで側近のように仕えていた。 「……姫様、聞き間違いでしょうか?今、魔法使いと仰いましたか?」 「そうよ。魔法使い。貴方なんぞに見つけられるかは知らないけれど、この国のどこかにはいるはずよ。草の根を分けてでも探しに行きなさい。見つけてくるまで、帰ってこなくていいわ」 アシェリーはとりつく島もなく言い捨てると、侮蔑した目で奴隷の前に歩み寄り、口角を上げて言い放った。その姿を偶々同室に控えていた使用人たちは、目の前で主人に捨てられた奴隷をあざ笑うかのように、口元に笑みを浮かべながら見ていた。 「さようなら。貴方の顔なんて見たくもないわ。数年でも数十年でも、見つけてくるまで帰ってこないで」 「……承知いたしました。それが姫様の望みならば、何年かかってでも探しに行きましょう。そして貴方のもとに馳せ参じます」 奴隷は目を一瞬曇らせつつも、淀みなく言い切ると、アシェリーのもとを去っていった。奴隷という身分でありながらも美しく人目を引く容姿であり、この国では珍しい髪色と瞳の色をしている。 アシェリーは一度も振り返ることのなかった奴隷に歯噛みしつつ、祈るような目で見送っていた。その目に侮蔑の色はなく、眉を下げて顔を隠すかのように伏せていた。隠すように伏せられた目の奥が一瞬揺らぎ、光るものが浮かんだのも、周りの使用人たちは気づく由もないのだった。
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