見た目ヤンキーくんと僕

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 周りの空気をたくさん吸い込んで吐き出す。吸って吐いて吸って吐いてを繰り返す。それこそここの酸素がなくなってしまうくらい。ドクドクと胸のあたりからうるさく前進に響く。永遠とも思える時間を過ごしていたら、扉の方から入ってくるように促される。ゴクンと少量しかない唾液を飲み込んで目の前にある扉をスライドさせる。全体の前に立つとざわめきが大きくなった。耳を澄ますと、「やった、好青年じゃん」「カノジョいるかな?」「私むっちゃ好みだわ」と容姿を褒めてくれる言葉が聞こえてきた。  「えっと、親の仕事の都合でこの町に引っ越してきました。野々倉俊(ののくらしゅん)です。よろしくお願いします。」  頭を下げるとパチパチとクラス全体から拍手をもらう。  「はいはーい、野々倉くんはカノジョいるのー?」  見た目ギャルの女の子がいきなり質問してきた。どうやら質問タイムとなったらしい。  「残念ながら今はそう呼べる相手はいません」  「そなの?カノジョのひとりふたりいそうなのにねー」  「あはは、そんなことないですよ」  苦笑いしながら質問をかわしていく。  「えー、じゃあ、前はどこにいたの?」  「そうですね、ここから東にある...」  話の最中にさっき入ってきた扉が開かれる。  「あー?誰だそいつ見ない顔だな」  紅い目がギロリとこちらを睨む。銀髪、耳にはピアス、制服は着崩され鞄を持った手は肩の上にのっけられている。  (ヤンキーだ。令和になってもいるんだ)  「ええっと、僕は今日転校してきたー」  「てめえの事なんて聞いてねえんだよ。 そこどけよ邪魔だ」  「え、あ、はい。ごめんなさい」  一歩下がって通り道を作ると舌打ちしてそのヤンキーは席に移動していく。 目の前を通ったとき、鞄についたキーホルダーにびっくりした。  (え?あれって...もしかして...いや、でもそんなことあるか?)  「えーっと、野々倉くんの席はあそこね。 じゃあ、出席を取るから呼ばれたら返事してね」  変な空気になり、どうすればいいのかわからなくなった事を察してか、担任の先生は強引に仕切り始めた。言われた所に座り先生の話を聞いた。  昼休みになり、学校探検をすべく教室を出た。昼ご飯は3限前の休み時間に食べたから時間は十分ある。あちこち回りながら考えるのはあのヤンキーのことだ。ヤンキーみたいな見た目なのにとても真面目なのだ。授業中はしっかりノートを取っているし、朝のあれはまだ遅刻らしく聞いたところによると彼は今のところ皆勤らしい。見た目詐欺である。  それに、彼の鞄についていたキーホルダー。あれは昔の幼馴染み兼親友のあいつにあげたこの世でたったひとつのものだ。クラスメイトなどの評価を聞く限り恐喝などでぶんどったわけではないみたい。ここから導き出せることは――。  考えながら階段を上っていたら、屋上へと続く扉が目の前に現れた。鍵も掛かっていないみたいなので開けてみる。  「うわあ!」  絶景が広がっていた。学校の周りの田んぼや民家、スーパーなんかも見えた。  「おい」  「!びっくりした~」  景色に夢中になって、屋上にいた先客のことは目に入らなかったらしい。  後ろから呼ばれて振り返ってみればさっきまで考えていた真面目ヤンキー君。  「お前、野々倉俊っていったか。」  「う、うん。君は...。」  「俺のこと忘れたとは言わせねーぞ俊。」  「忘れてないよ。見た目が昔と全然違ったから最初はわかんなかったけどね。竹浦日向。」  そう、彼は竹浦日向(たけうらひなた)。僕の幼馴染み兼親友だ。5年前に父親の転勤で引っ越しする前までずっと遊んでいた。近所のおばさんには兄弟だと間違えられるくらい仲がよかったのだ。  「それにしても、なんでそんなヤンキーみたいな格好にしたの?」  「別に、俊があっちに行った後にはまったゲームの影響だ。」  「へえ、どんなゲーム?」  「アクションなんだけどよ、舞台の学校のトップに君臨してる番長と呼ばれる奴がかっこよくってよ。...」  彼はゲームオタクなところがあり、昔はよく付き合ってやっていた。また、影響を受けやすいところもあったため、見ないうちにこうなったのだろう。  目を輝かせて語っている彼を見て影響を受けても変わっていない所にほっとした。  永遠と語る親友に耳を傾けながら昼休みが終わるまで屋上でのんびりとすごした。  
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