2363人が本棚に入れています
本棚に追加
/264ページ
「んじゃ、莉々果さんの家で」
「無理むり絶対無理」
こんな男を家に入れてたまるか。
「じゃあ、駅前に戻りますか」
そう言って彼は私の腕を掴むと引っ張り始めた。
「ちょ、ちょっと。一人で戻ってください」
「俺のおごりだから一緒に食べましょうよ~」
どうせおごりと言って最後は私に支払わせる魂胆だろう。ていうか、そもそもなぜここまでついてきたんだこの男は。面倒だ。実に面倒だ。
「遠慮します」
「今日誕生日でしょう?」
「……」
知っていたのか。
今日は私の30回目の誕生日。就職を機に都会に引っ越してきた私はこちらに友達がいるわけでもなく、会社の人と友達になるわけでもなく、誕生日はずっと一人で過ごしてきた。
その一人の誕生日ですら何度も繰り返すとケーキなんていつでも好きな時に食べられるからとわざわざ用意することもなくなり、食事もいつもと変わらないものを食べ、ただおめでとうメールが届くという一日でしかなくなった。
最初のコメントを投稿しよう!