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僕はバクバクなる心臓を押え、全速力で昇降口に入るとそのまま教室まで階段をかけ登った。
息を切らして教室に飛び込んできた僕を他の生徒が驚いた顔で見るけれど、そんなことに構ってなんていられなかった。
どうしよう。
もしかしてこれが毎日続くの?
僕、死んじゃう・・・。
僕はそのまま机に突っ伏した。
新しい生活が始まったというのに、なんで僕はこんなことになってるんだろう。これじゃあ友達だってできやしない。
本当は少し楽しみにしていたんだ。だって、オメガは数が少ないし、第二性をむやみに言ったり聞いたりしてはいけないって言われてるから、今までは誰がオメガか分からなかったけど、ここには少なくともオメガとベータしかいない。当然オメガの数も他よりは多い訳で、分からないなりにも仲良くなったらオメガの子もいるかもしれない。
なのにオメガの友達どころか、普通に友達もできないかも・・・。
僕だって入学早々こんな挙動不審な奴がいたら、近づきたくないもの。
高校生活はもっと楽しいものかと思ってたのに・・・。
知らずため息が出てしまったその時、チャイムと共に榊先生が入ってき。そのドアの音にそちらを向くと、先生も僕を見ていて目が合う。すると眉がぴくりと動くのが分かった。
さすが先生。僕のげっそり顔を見てもその程度のリアクションに納めたらしい。これがきっと、まったく別の場所だったらすぐさま駆け寄ってきたに違いない。
るーくんも兄さんと同じくらい過保護だから。
おそらく一目見ただけで僕に何かがあったのは分かっただろうけど、僕だって伊達に長い付き合いをしていない。あの眉毛ぴくりでどれだけ先生が僕を心配したかは分かった。だから僕は他の人には分からないように微笑んで、声を出さずに言った。
『大丈夫』
そしてまたにこっと笑った。すると一瞬片眉を上げるも、先生は通常通りホームルームを始めた。どうやら大丈夫だからアピールは上手くいったらしい。でも気が抜けないので、僕はホームルームが終わって先生が教室を出るまで、口元の笑みを絶やさなかった。
そして、そんな毎日が続く事になる。
校門から教室までのダッシュは時には駅からの通学路から始まることもあり、とにかくあの恐怖を感じると僕はひたすら走って逃げた。そして一日中教室から出ず、まさかの遭遇を回避してきたのだ。
その結果とりあえず今のところあの人と会うことはないけれど、その怪しい行動で友達もできず僕は一日中一人で席に座っていた。
みんなもう、グループが出来てきたな・・・。
他のクラスメイトはそれぞれ友達もでき始め、楽しそうに話をしている。だけど僕の周りには誰もいない。
仕方ないよね。
そんなことより、僕はあの人に会うことの方が怖いんだから。
毎日のように感じるあの恐怖は、いつまで経っても消えなかった。自分でも分からないけど、背筋をゾワゾワしたものが駆け上がり、鼓動が早くなって来る。それはいつも急に訪れ、その人自体を見た訳では無いのに、早く逃げなければという気持ちに掻き立てられる。
姿を見たわけじゃないのに・・・。
あの人の姿を見たのはあの入学式の時だけ。それも廊下を歩いている横顔だけだ。
だけどいつもあの人だって分かるんだよね。
その姿を見てないのに、なぜかあの人だって分かって逃げ出したくなるんだから、僕にとってはあまりいい人じゃないってことだ。とにかく、会わないようにしなきゃ。
そう思ったところで予鈴が鳴り、みんなが席に着き始める。
次は榊先生の授業だ。
変な顔してたらまた心配させちゃうから、ちゃんしなきゃ。
そう思って、机の中から教科書とノートを取り出したその時、ふと視線が窓の外に向いた。僕としては無意識だったその視線はなにかに吸い寄せられるように一点に向かい、そして・・・。
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