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母はとても幸せそうに笑っていた。
柔らかい陽射しが当たるベッドの上に座っていた母は、僕が行くといつもそこに乗せてくれた。
『お母さんはなんて幸せなのかしら』
そう言って僕を抱きしめてくれた母。
父と出会った幸せ。
兄を生んだ幸せ。
そして僕を生んだ幸せ。
特に父と出会ったことが、一番幸せだという。
『運命の出会い』
母はそう言って、本当に幸せそうに笑った。
けれどその母は、僕が小学校に上がる前にその幸せな笑顔のまま眠りについた。
だけどその顔は本当に幸せそうで安らかだったから、母が亡くなって寂しかったけれど、悲しみはそれほどなかった。だって母は、本当に幸せの中で旅立って行ったのだから。
それから家は父と兄と三人になった。
幼い僕が寂しい思いをしないようにと、二人とも僕のことをすごく愛情をかけて育ててくれた。特に年の離れた兄は、母の代わりもしてくれた。家でのことはもちろん、学校行事にも全て参加してくれて、授業参観や運動会など、母親が参加する行事には必ず来てくれた。母がいない寂しさを僕が感じないようにしてくれたのだ。
そんな兄も、結婚することになった。
そのお相手はオメガの可愛い女の人。
なんでも会社の後輩なのだそうだ。
アルファの兄とオメガの彼女はとてもお似合いで僕もうれしい。だから僕は兄に訊いてみた。
『運命の出会いをしたの?』
母がいつも言っていた、父との運命の出会い。
あとで『運命の番』というものを知って、父に聞いたことがある。
『父さんと母さんは運命の番なの?』
すると父は少し考えて、多分違うだろう、と答えた。
『運命の番は出会った瞬間から激しい恋に落ちると言うけれど、父さんと母さんはとても穏やかな愛だった。だけど例えそれが『運命の番』でなくても、父さんが母さんと出会ったことは運命だったと思っているよ』
そう言って柔らかく笑った父の笑顔は、母の笑顔と同じだった。
そんな両親を見て、僕も自然と笑顔になる。
僕も両親のような出会いをしたい。
だから兄もそんな出会いをしのかと、訊いてみたのだ。
『運命かどうかは分からないけど、彼女と初めて会った時、一人だけ輝いて見えたんだ』
そう言って笑った兄の顔も、父と母と同じだった。
『じゃあやっぱり、運命の出会いだね』
運命で繋がっていたから、輝いて見えたんだ。
兄も運命の出会いをした。
僕も早く、運命の出会いをしたい。
僕は両親や兄のような『運命の出会い』にとても憧れていた。だから第二性診断でオメガと診断された時、いつか僕のアルファに出会えると思うとうれしくてたまらなかった。
小さいときからアルファっぽくなかった僕は、きっとベータかオメガだと思っていた。別にベータでも運命の出会いは出来ると思うけど、僕は両親や兄夫婦のように『番』になる事に憧れている。だって、それは紙きれとは違う永遠に切れない繋がりだから。一生を掛けた契り。そんな相手と運命的に出会って番になりたい。
だから僕は自分がオメガでうれしかった。
そんな僕も高校生になった。
もともと過保護気味だった父と兄は、僕がオメガだと分かるともっと過保護になった。そんな父たちに勧められて入ったのがこの私立の高校。
特に勉強が得意でもなく、やりたいこともなかった僕は普通に公立校でいいと思っていたのだけど、公立だとアルファと同じクラスになる可能性もあるからと、私立に行くことになった。私立だったら大抵はアルファとオメガは同じクラスにはならないし、僕が通うこの学校は校舎すら分けられているのだ。
運命の出会いも遠のいちゃう。
初めはそう思ったのだけど、入学式の日に何気なく見た窓の外でその人を見た時に、僕の心臓はどくんと鳴った。
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