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「もおお、ちょっとぉ! せっかくいい所だったのに!」
「いや、莉渚……日曜の朝っぱらから何てモノを観てんの」
ようやく起き出してきたパパが、引きつった表情で苦言を呈する。
私はギロリと冷ややかな眼差しを向けた。
そもそも誰のせいでこうなったと思っているんだ、まったく。
「よく観れるよね、そんな怖いの。さっきのシーンなんて絶対にモザイクを掛けるべきだよ」
「えー、そんなグロいとこなかったと思うけど?」
私とは対照的にパパはホラーが苦手。医療物の手術シーンですら敬遠気味だ。
ああそうだ、医療と言えば……
「ねえ、パパ。その贅肉どうにかしないとヤバくない? 普通の人間がベッドから落ちたくらいでは、あそこまでの地響きは起こらないでしょ」
「う」とパパが呻いて、完全に痛い所を突かれたという顔をする。
いくら起こしても起きなかったくせに、ベッドから落ちてそのまま寝ていた自覚はあるらしい。
「いやね、パパも分かってはいるんだけどね」
「全然分かってないし。本当に迷惑だし視界の暴力だしそれこそモザイク掛けて欲しいくらいだしパパの体型ってほぼ球体だしいくら何でも太り過ぎなのよっ!」
私はここぞとばかりにノンブレスで捲し立ててやった。
このごもっともとしか言えない私の指摘に、パパは大きな体をきゅうっと窄めた。
今までにも散々言われてきた事なのだから、さぞかし耳が痛いだろう。
「ねえパパ、分かるよね。私はパパの健康を気遣って言ってるんだよ?」
今度は優しい声音で語り掛ける。
責めてばかりではいけない。アメとムチはきちんと使い分けなければ。
案の定、いともあっさりとつぶらな瞳をじわじわ滲ませていくパパ。
「そ、そうか、ありがとう莉渚」
「うんうん。だからね、私の卒業式までに何とかしてね、そのお腹」
「え?」とパパの目が点になった。
「えーと、莉渚の卒業式まであと2ヶ月しかないよ……?」
「でも目標がないと闘志も湧かないでしょう? あ、私は卒業式までおばあちゃん家でお世話になるから大丈夫だよ」
「……え?」と、パパの目が更に小さな点になる。
「ちょ、ちょっと待って! それまでパパは一人ぼっちって事?」
「うん。でもパパがちゃんと痩せてくれればまた戻ってくるから」
そう言ってニコッとパパに微笑むが、パパは呆然としたままピクリとも動かない。
そんなパパを放置して、私はすっくとソファから立ち上がった。
階段を駆け上がって自分の部屋へ滑り込むと、ちゃっちゃと手際よく荷造りを済ませる。
そのままキャリーバックを抱えて玄関へと一直線。
おっと、お気に入りの傘を忘れる所だった。
「え、莉渚、冗談だよね? ちゃんと帰って来るよね?」
おろおろと付き纏ってくるパパに、やはり私はにっこりと笑って言う。
「それはパパ次第だよ? じゃあ卒業式を楽しみにしてるね! クッドラック、パパ!」
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