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第六話
冬が深まると学内の落葉樹はすっかり葉を落とした。空気の澄んだ冬空にふたり分の白い吐息がうかぶ。
帰り際に勇気を出して「部屋の中を見たい」と俺は口に出してみた。
そうしたらあいつは肉まんを両手に持ちながら、「いいよ」とつんと返した。
指先がこわばるくらい緊張していたのに。やっといえたと思ったのに。それなのにあいつは赤ん坊をあやすように微笑みかける。
もっと喜ぶとか。恥ずかしがるとか。びっくりするとか、……ないのか。ちょっと怒りたくなるが勝手な想いはぐっと吞みこんで黙った。
おまえは友達だぞと線引きされている。友達以上には昇格しないんだぞと明示されている気がした。
防寒着に身をつつみ、冴えわたる寒さが頬を刺した、ジャケットに両手を突っ込んで、俺は背中に棒を突っ込んだように立って、深くうなずいた。
大学から徒歩十分のところにある木造アパートに呼ばれ、隣に大家がいるので先にそちらに寄る。眼鏡をかけた年配の大家にじろじろと見られながらも許可証という名の紙をだされて筆をとる。
名前と連絡先を書くように説明され、自分の名を書いているうちにへんなことを想像してしまう。ちらっと横目で窺うと、トゲネズミは線をひいた目でこちらを見てにっこりと笑っている。婚姻届を書くように文字一つ一つを丁寧にしたためた。
あ、こいつと結婚するな。
勝手にそう思った。
アパートに足を運ぶと赤茶色に変色して錆びた円柱に、玄関脇に置かれた外付けされた洗濯機が目に入った。確かにぼろい。入り口前のオートロックは奇跡のように思われ、心配が募る。
そんなひどい外見とは一転して、部屋のなかに足を踏み入れる。きれいに整頓された日当たりのいい六畳一間と本棚があった。
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