第九話

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第九話

 ススキの花穂が赤から白色になるころ、七海から連絡が入った。  『ヒートがきたよ』というメールがはいると、俺はすぐに全速力で走った。変な奴に目をつけられていないだろうか、身体は大丈夫なのか、だれかに目をつけられてないか、心配で懸命に足を動かした。  合鍵で扉をひらくと、桃の匂いが漂う。馥郁とした香りにくらっときて、頭を振って自分を取りもどす。部屋に足を踏み入れて、七海を探す。 「だいじょうぶか?」  声をかけると、はっとなって布団にもぐりこんで、カタカタと震えているのが布越しでもわかった。 「怖くないから……」 「んっ……」  安心させるように、警戒を解いてやろうと声をかけて布団を剥がすと、ぶわりと匂いまとわりついた。 「香りがする」  七海はうつむいて、背中をまるめてうずくまっている。 「……ひあ、あ、あ、あ、あ」  顔をあげると、粒になった涙がぽろぽろと落ちて頬をつたう。ぐっしょりと汗で濡れた布団は染みができて、ぐわっと頭に血が上る。駄目だ。落ち着け。おちつくんだ。おちつけとこころのなかでなんども唱えた。 「愛してる」 「んっ、けいとお……」  しなだれるように、体にしがみついてくる。軽いキスを落とす。我慢だ。我慢しろと何度も頭に命令を放つ。それなのに七海は尖った乳首をおしつけて、首筋をしゃぶりながら俺の服を脱していく。口腔に伝わってくる柔らかくて温かい舌の感触、熱くて硬くなった肉棒の感触。見たことのない痴態をさらけ出され、またぐらっと理性が揺れる。息が弾んで、ぐんぐんと快感が上昇する。 「……っ」 「んあっ……っ」  前戯をしなければと思って乳首を引っ張る。押し潰すとぴんと張りのある弾力がまぶしい。耳たぶを噛んで、耳のうらに舌を這わす。気づくと七海は茂みに移動して青筋立つ剛直を舐めていた。たどたどしい舌遣いで、ちいさな唇をのせて吸いついている。その姿にぱんっとなにかが弾けた。 「ごめん、持ちそうもない」 「えっ……」  ひっくり返して、うつ伏せにして、押さえるように、七海の上にのっかる。 「ごめん」  止まらない。だめだ。大事にしないと。大切にしないと。幸せにしないと……。そう思うたびに、とまらない。七海の胎にある場所へ種をうみつけたい。  きばった先端を緩んでふくらんだ蕾にあて、襞を押しつぶしながらいれた。熱くて、ぎゅうぎゅうに締めつけてうねって蠕動している。 「あう、あ。あああああっ……」 「……すごい」  熱い吐息と肉が絡まる。逃げる唇を引き寄せて貪った。とめどなく出てくる唾液と愛液が欲情を誘う。 「だめっ……、だめだめだめぇっ」  かすれた声で、七海はきつく太腿で締めつけてくる。向かい合って座らせても、首を振ってしがみついてくる。上下に動きを激しくし、押し寄せる快感を頂点に導こうとして抽挿を速めてしまう。結合部から溢れる淫液は泡立って、鼠径部を夥しく濡らす。めいいっぱいに根元まで押し込んで、激突を食わらせる。 「アッ! あ、や、あッ」  奥深くまで突き刺して、膨らみをしつこくすりつぶした。尖った乳首の先をこねるように舐めて吸う。ぷしゅっと噴射を感じ、扱かずに、七海は精を吐き出し続けた。 「わるい。とまらない」 「……あああああン……や、や……へん、へんになっちゃうよお……」  絶頂の痙攣が肌を走り、すすり泣くような声がまた欲情を駆り立てた。かわいい。でも足りない。まだ、足りない。ほしい。欲しくて、体の底から渇いた欲望がこみ上げた。  跳ね上がる身体を全身で押さえつけて、俺は青い血管がういたうなじを咬んだ。ひとつ。またひとつ。そしてもう一つ。唇ですいながら、咬んで、いっきに根元まで埋め込んだ。そして数秒よりも長い間、剛直から射精の脈動を開始させる。  終わったあともなんども激しく腰を打ちつけて、頭がおかしくなるぐらい鋭くえぐった。幾度となく繰り返して、やっと抜いてからしたたる精液にはっとした。ぐったりとしている七海に気づいて、ぞっとして青ざめた。 「な、ななみ……、ッ……」  うなじが血で真っ赤に濡れ、肉がえぐられて皮膚が赤々とめくれていた。急いで出血を止めていると咬み痕が三つもあるに気づいた。しまった。なんてことをしてしまったんだと。頬を軽く叩いてやるが意識がない。たまにぴくぴくと動いて、手当てを拒まれる。どんどんと顔色は悪くなり、このまま死んじゃうんじゃないかと思った。慌てふためいて携帯を手にして、オメガ専用の救急車を手配した。  すぐに病院に担ぎ込まれ、命に別条がない旨を知らされるが医者の目は冷たかった。欲望のままに、襲いかかり、同意のないままにしたのかという問いを繰り返される。犯罪者を見る目つきだった。鬱血痕は痛々しく、俺は自分の浅はかさと思慮のなさにとてつもなく後悔した。  
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