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カツカツと跫音を響かせながら、記憶を現実にトレースする。
ここへ来るのは何年振りだろうか。
ルカとは面会できないと言われた後も、また会えると信じて、ルカが行方不明になっていることを知るまでの数年間はここに通っていた。
——ここだ。
ユゥカは部屋の前で足を止めた。足音の残響も静かに消える。
ルカとの面会に使われていたのは、いつも決まってこの面会室だった。本来なら厳重に閉ざされているスライドドアは、今は無防備にも開け放たれている。
ユゥカは恐る恐る足を踏み入れた。覗いて中を確認しようとは思わなかった。ルカとの再会を劇的なものにしたかったのかもしれない。
一歩入って、景色が過去の記憶と重なった。
そこは、自分が汚染物質なのだと錯覚してしまうほどの、真っ白な部屋。
分厚い超強化ガラスを挟んで、白い椅子が向き合って設てある。椅子に置かれているのは、会話用の白いヘッドセット。
そして——。
「やあ、ユゥカ」
黒いロングコートに身を包んだ、長い黒髪の、ユゥカによく似た女が、こちらの部屋の壁に寄り掛かっていた。
「ここへ来たってことは、伝言の意図を理解したみたいだね。結果は予め知ってたけど、まさかあんな昔の会話を憶えてるとはね」
ルカは呆れたように言った。その様子が、まるで想い出のあの頃のようで、じんと目頭が熱くなった。友人を亡くした今、ユゥカの心を唯一支えてくれる者の存在を確認して安心したのだ。
「久しぶりだね、ユゥカ。と言っても、この前会ったばかりだけど」
「……ルカ」
ユゥカは涙を堪えてAIGを構えた。
「今回の騒ぎは、やっぱりルカが起こしたの……」
ルカはふと笑みを浮かべた。
「そうだよ」
聞きたくない答えだった。ルカであって欲しくない。ルカであるはずがない。そう信じていた。
「どうして……こんな」
「その前に」
そう言ってルカは言葉を止めた。
「よっと」
ルカが手を差し伸ばすと、ユゥカの手からAIGがすり抜け、吸い込まれるようにルカの手に渡った。
「あっ」
「こんなのあたしには当たらないけど、動きは制限されるからね。会えるのはこれで最後だし、ユゥカとは気兼ねなく話したい」
壊しておくよとルカが言うと、AIGはたちまち手の中で赤熱し、歪な形に蕩けてしまった。
「少し、外へ出ようか」
屋上が良い——そう呟いて、ルカは空気銃だった物を放り捨ててドアを開けた。
「ほら。行くよ」
「……うん」
二人で廊下をしばらく進んで、昇降機の前で立ち止まる。
「ここは……」
施設に何年も通い続けていたユゥカでも、ここまで来たことはない。この昇降機も、だから使ったことがないし、存在すら知らなかった。
「ここは職員専用の昇降機なんだ。職員のIDがなきゃ使えない。でもあたしにかかれば……」
ルカはリーダーに手を添えた。すると間もなく静かな駆動音が鳴り、昇降機のドアが開いた。
二人でそれに乗り、ルカは行き先を最上階に設定した。微かな慣性を感じながら、ユゥカたちはゆっくりと上昇する。
十秒ほどして、最上階へ到着したことを電子音が告げた。
「さ、出よう」
ドアが開くなり、ルカはユゥカの手を握って外に出た。
「もう少しだよ。そこの階段を登れば」
屋上だからと、ルカは階段を指差す。
ユゥカはルカに手を引かれるまま、階段を登った。
階段を登りきり、ルカはまたリーダーに手を添えて、ドアのロックを難なく解除した。
ドアが開くと、ごうと風が吹き込む。空は白く曇っているが、雨はもう止んでいるらしかった。
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