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「それだけじゃない 」
ルカは白い空を仰いだ。
「人体実験までやらされてたんだ」
「どういうこと」
唐突に発せられた「人体実験」という単語に、ユゥカは困惑した。
「一級や二級の能力者を集めて、軍事利用できないか、エネルギー問題に活用できないか……とかね」
「まさか、ルカも……」
ユゥカがそう尋くと、ルカは首を横に振った。
「あたしはずっと、能力不明だったから。ほとんど何もされてないよ。能力を自覚した後も、隠してたしね」
でもねと、ルカは続けた。
「他の人は違う。体がぼろぼろになるまで能力を使わされたり、体を切り刻まれたり、脳をいじられたり、薬漬けにされた人だっている。もちろん死んだ人も」
おかしいよねと、ルカは呟くように言った。
「ただ大多数の人と違った体質を持っただけなのに、道具みたいに利用されて……。施設の人だけじゃない。民間人だって、何人も犠牲になってるんだ」
「嘘……」
嘘じゃないよと、ルカは返した。
「現に、最近は行方不明者が増えてるでしょ?」
信じられなかった。この国の裏でそんな非人道的なことがされているなんて。
あまりにも衝撃的で、フィクションの出来事のように感じた。まるで現実味がない。
「ユゥカも知ってるんじゃないかな。あの薬も、研究——異能力拡張実験のためにできたんだよ」
「あの薬って……」
「異能促進剤だよ」
——異能促進剤……?
語感からして能力を促進させる薬だろうかと考えて、以前にもこれと同じ推察をしたことを、ふと思い出した。
「異能因子分泌器官に作用して、異能因子の分泌を活性化させる薬だよ。確か、Aピルと併用すると、Aピルの効果が弱まるんだったかな」
「……あ」
哲人から同じ説明を受けたことがある。あれは確か、現金強奪犯を捕らえる直前だ。哲人に渡されて服んだら、Aピルを服用していたにも関わらず、能力が使えたのだ。
「話を戻そう」
ルカは口元に笑みを浮かべた。
「虐げられたり実験に使われたり……特殊障碍者がこんな目に遭うのは、きっと、みんなと違う特別な——異端と認識されていたからだと思うんだ」
ルカの目から光が失われていくのを感じた。どす黒い厭な気配が、ゆっくりとルカを包み込む。
「皆が能力を使えれば——特殊障碍がごくありふれた障碍になれば差別はなくなるし、明日は我が身と思えば実験だってなくなる」
そうでしょ——ルカが笑うと、ごうと不気味な風が吹いた。
「だから、こんな事件を」
「うん」
あっけらかんとしたルカの応えに、ユゥカは息を呑んだ。
受け入れたくない。こんな場所に呼び出されて、こんな会話をしていても、ユゥカは今でも、ルカが犯人であるはずがないと信じている。
「本当に……ルカなの。違うよね」
「違わないよ」
ルカはきっぱりと即答した。
「誰かに操られたり、騙されたりとか」
「あたしの意思」
「じゃあ——」
「あたしはね」
ルカは唐突にユゥカの言葉を遮った。
「あたしは、異能因子受容器官を変質させる能力をストックしてるんだ」
ユゥカは戸惑いながらも、ルカの言葉を黙って聞いた。
「その能力で、金で雇った脱漏者の身体を、あたしが持ってる能力の一つ、因子転換能力に適応させる。すると、触れた相手の血中の異能抑制因子を、構造がよく似た異能因子に転換させられるようになるんだ」
「それって、つまり……」
「そう。これが能力暴発の仕組み。正真正銘、あたしが考えたこと。あたしにしかできないことだよ。因子転換は異能力不明の施設居住者から頂いた」
信じてくれたかな——と、ルカは手品の種を明かすように両腕を広げた。
「これまでも、これからも。あたしは止まらない」
ルカは決意表明をするように、ユゥカの目を見据えた。
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